地球上最大級の生物と言われる「ダイオウイカ」。古くから船乗りたちに恐れられた海の怪物「クラーケン」の正体とされることもある有名な海洋生物だ。
ダイオウイカは世界的にも有名な生物であるが、深海で暮らす彼らの生態の多くは謎に包まれている。
今回は『ダイオウイカの巨大な身体、マッコウクジラと戦うという噂の真偽、味は美味しいのか?』など、ダイオウイカに関する様々な謎を解き明かしていこう。
ダイオウイカとは?
ダイオウイカ(Architeuthis dux)とは、開眼目ダイオウイカ科に分類されるイカの一種。10メートルを優に超える巨大な体長を持ち、世界最大級の無脊椎動物のひとつであると考えられている。
基本的に深海で生活していることから人の目に触れる機会は少ないが、まれに海岸に打ち上げられることもあり、古くから巨大なイカの存在は知られていたようだ。
ただし、生きている個体の目撃例はきわめて珍しく、生きたダイオウイカの撮影に成功したのは21世紀に入ってからの事だ。現在でもダイオウイカの生態は謎に包まれている。
ダイオウイカの名前の由来
ダイオウイカという和名は、文字通り「イカの大王」という意味を込めて名付けられたといわれている。和名に限らず、ダイオウイカの属名であるArchiteuthisにも「最高位のイカ」という意味がある。
また、英名では『giant squid(ジャイアント・スクィッド)』と呼ばれ、中国語でも『巨烏賊(チューウーツェイ)』と名付けられている。どの国の人々もダイオウイカの巨大さには驚きを隠せなかったようだ。
ダイオウイカの生息域
ダイオウイカが目撃されたことのある地域は意外と広範囲に渡り、北アメリカやヨーロッパ付近の大西洋、ハワイ島付近、日本などに及ぶ。
ただし、目撃例の多くが「漂流してきたダイオウイカの死骸が海岸に打ち上げられたもの」であり、正確な生息域ははっきりと解明されていないのが現状だ。
1954年ノルウェーにて発見されたダイオウイカの死骸
生息域に関して、現在わかっている点としては、ダイオウイカは深海に生息しているということ。深海650~1000メートル程度の深さで生活していると考えられており、世界各地の海に相当な数のダイオウイカが生息していると推測されている。
ダイオウイカの大きさ
かつて日本で発見されたダイオウイカの大きさは、外套長が1.8m、触腕を含めた最大長が6.5mもあった。しかし、このサイズでもまだまだ小さい方であり、過去には全長17.5メートル、体重が約1トンもあるダイオウイカが発見されている。
他にも20~30メートルを超える個体の目撃談も多数報告されている。これらの報告に関しては信憑性が低いとされ非公式な記録とされているが、今後30メートルを超えるような個体が発見される可能性も無いとは言い切れないだろう。
ダイオウイカの卵は約1㎜
全長が10メートルを超えることも少なくないダイオウイカだが、全てがビッグサイズだという訳でも無い。ダイオウイカの卵はとてつもなく小さく直径にして1㎜程度。もちろん、生まれてくる子どもたちも数ミリ程度の大きさしかないことになる。
ダイオウイカの卵は海岸に打ち上げられた死骸から採取されることも多く、しばしば研究の材料とされている。しかし、実際に深海で生活しているダイオウイカの繁殖場所や産卵方法、孵った稚魚がどのように成長していくのか?といった疑問については、ほとんどわかっていないのが現状だ。
ダイオウイカの目玉は世界最大!
ダイオウイカの大きさに関する記録は全長だけにとどまらない。ダイオウイカの眼球…つまり『目玉』は、地球上のあらゆる動物の中で最大級の大きさなのだ。
ダイオウイカの眼球のサイズは直径30センチメートルにも達する。一般的な大人用バスケットボールの直径が24.5㎝であることを考えると、ダイオウイカの眼がいかに大きいか実感できるだろう。
ちなみに、人間の眼球は直径2.5センチメートルほどしかなく意外と小さい。
ダイオウイカより大きいイカ?ダイオウホウズキイカ
近年、巨大イカとして有名になったダイオウイカ・・・。
しかし、地球上にはダイオウイカを上回る大きさのイカが存在している。体長18メートルを超えるダイオウホウズキイカ(コロッサル・スクイッド)だ。
ダイオウホオズキイカと人間のサイズ比較
現在ではダイオウイカよりもダイオウホウズキイカの方が大きいという説が有力視されており、20メートルを超える個体も存在していると考えられている。
ダイオウホオズキイカはダイオウイカと名前こそ似ているものの、分類学上はとくに近縁というわけではない。ダイオウホウズキイカの吸盤にはダイオウイカには存在しない巨大な鉤爪が備わっており、その大きさは5センチメートルにも達する。
生息地域も限定されており、南極海周辺の2000mもの深海で生活していると考えられている。
ダイオウホウズキイカもダイオウイカ同様、捕獲はおろか目撃されること自体が珍しく、研究が思うように進んでいない。謎に包まれている神秘の生物なのだ。
ダイオウイカの寿命
アオリイカやヤリイカなど、私たちの食卓に並ぶような一般的なイカの寿命は1年前後と言われている。それでは数十倍もの巨体に成長するダイオウイカの寿命はどのくらいなのだろうか?
ダイオウイカの寿命に関しては専門家の間でも意見の分かれるところであり、はっきりとしたことはわかっていないが、おおむね2年~5年程度だと考えられている。1mmの卵から産まれた小さな子供が、たった数年で10メートルを超える大きさに成長するのだ。
ダイオウイカの食性
ダイオウイカの主な食べ物は深海に棲息する魚やイカだ。ニュージーランド近海での調査によると、オレンジラフィー(タイの仲間)やホキ(タラの仲間)といった魚のほか、小型のイカなどがダイオウイカの消化器官から発見された。
また、ダイオウイカは「クジラをも捕食する」といわれることもある。マッコウクジラなどの大型のハクジラが巨大なダイオウイカを捕食することは有名だが、逆にダイオウイカがクジラを捕食するということもありうるのだろうか?
残念なことに、ダイオウイカがクジラを積極的に捕食しているというコレといった証拠はないようだ。しばしば、ダイオウイカの吸盤によって傷ついたクジラが発見されるため、このような憶測が広まったのかもしれない。
ダイオウイカはマッコウクジラと戦う?
ダイオウイカが「クジラを捕食している」という根拠は無かったものの、ダイオウイカとマッコウクジラは戦うことがあると考えられている。
マッコウクジラは体長15メートルを超える巨体を持ち、深海3000mにまで潜水することができる。しかも、丈夫な歯を持っているため巨大な獲物もぺろりと平らげることのできるダイオウイカの天敵だ。
ダイオウイカによるものと思われるマッコウクジラの皮膚の傷跡
マッコウクジラの頭部にはダイオウイカのものと思われる吸盤状の傷が残っていることが多い。これは食べられそうになったダイオウイカがマッコウクジラの頭部に貼り付いて抵抗していたことを意味する。
実際にマッコウクジラ撃退に成功するダイオウイカがどのくらいいるのかは不明だが、マッコウクジラの皮膚についた痕跡を見れば壮絶なバトルが行われたことは想像できるだろう。
ダイオウイカの味は美味しい?臭い?
ところで、日本人といえばイカが大好きなのはご存じだろうか?一説によると、世界の水揚げ量の約半分を日本人が消費しているそうだ。そんな日本人からすればダイオウイカも美味しそうな「ただのイカ」。大きさ以外は普通のイカの形をしているが、ダイオウイカは一体どんな味がするのだろうか?
ダイオウイカを食べた人々は、口を揃えて「美味しくない!」と言うようだ。アンモニア臭としょっぱさ、独特なえぐみと苦みが口の中に広がるという。大型のイカ類の体組織には浮力を得るための塩化アンモニウムが大量に含まれていることが美味しくない原因のようだ。
近年では、塩化アンモニウムを多く含む魚介類の加工技術をダイオウイカに応用することで「美味しくなる可能性」が高いと評価されるようになり、南アメリカ諸国が中心となって本格的な食用化研究を進めているという。