「裏から見るとグロい!」なんてネットで話題になることもあるカブトガニ。普段見かけることの少ない生物だけど、カブトガニは僕たち人間と深いつながりのある生物なのだ!
今回は世界のカブトガニの種類、寿命や食べ物など生態、似ている生物カブトエビとの違い、青い血液が薬開発に必要な理由について触れてみよう!
カブトガニとは?
カブトガニとは鋏角亜門カブトガニ目(剣尾目)に属する節足動物。その名の通り、カブトをつけたカニのような姿をした生物だ。

生きた化石の代表的な生物としても知られており、その姿はカンブリア紀に反映した古生物「三葉虫」に瓜ふたつ。
生息地周辺に住んでいる人以外には、あまり馴染みが無いかもしれないが、カブトガニの血液は薬の開発にも利用されるなど、人類にとって密接ななくてはならない生物だ。
カブトガニの分類-実はカニではない
カブトガニという名前の通り、見た目はカブトを被った蟹のようだが、実際にはカブトガニは蟹ではない。

現在、カブトガニは鋏角類というグループに分類されており、甲殻類である蟹よりもクモやサソリ、ダニに近い生物だ。
かつてカブトガニはカンブリア紀の古生物「三葉虫」の子孫や近縁種と考えられたこともあったが、現在では全く異なる生物であることが分かっている。
カブトガニは生きた化石
カブトガニを見て古生物っぽさを感じた人も多いはず。カブトガニと三葉虫は異なる生物だった訳だが、カブトガニの古生物感が強いのには理由がある。

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現在分かっているだけでもカブトガニは約4億4500万年前のオルドビス紀には存在していた。しかも、その頃からほとんど姿形を変えていないのだ。

このように大昔から姿を変えていない生物のことを俗に「生きた化石」と呼び、身近なところではサメなどもその一つ。意外にも多くの生きた化石ご存在するが、生物が陸上で繁栄する以前の時代から見た目が変わらないカブトガニは、とても珍しいと言えるだろう。
カブトガニの食べ物
カブトガニの主な食べ物はゴカイなどの小動物。食性は肉食よりの雑食で、二枚貝・巻貝・多毛類・甲殻類・海藻など何でも食べる。

カブトガニはその特殊な形状から泥に沈んでしまうことが無く、起きている間の大半を泥の中に隠れた餌探しに費やすことも分かっている。
カブトガニが属する鋏角類は液体状のものしか摂取できない生物が多いが、カブトガニは固形のものを食べることができる特殊な消化器官を持っている。
カブトガニの寿命と一生
カブトガニの寿命については諸説あるが、節足動物の中では比較的長寿であることが分かっており、研究の進んでいるアメリカカブトガニでは、約20-40年の寿命であると推測されている。

生まれたばかりのカブトガニは数年間で十数回の脱皮を繰り返し、成体になる。成体になったカブトガニは脱皮をしないため、体にフジツボや巻貝などが固着することも多いようだ。
夏には産卵期を迎え、数万個の卵を産む。幼生は卵の中で数回脱皮を繰り返しながら大きくなり、数ヶ月後に孵化する。
カブトエビとカブトガニの違い
カブトエビは世界各地の淡水に生息する小型の甲殻類。カブトガニ同様、大昔から姿かたちの変わらない「生きた化石」の一つだ。日本では6~7月頃に水田などで見つけることができる。

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カブトガニとカブトエビは見た目の似ていて近縁種のように思われがちだが、実際には全く異なる生物だ。

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カブトガニは甲殻類ではなく鋏角類であるためエビやカニとは分類上は遠く、クモやサソリに近い生物だ。逆に甲殻類であるカブトエビはエビやカニと近い分類だということになる。ただし、カブトエビは名前にエビとついているもののエビ類ではない。
カブトガニの種類
現生するカブトガニ類は4種類確認されているが、すでに絶滅した化石種を合わせると80種以上に及ぶ。ここでは現生のカブトガニ4種類の特徴について紹介しよう。
カブトガニ
単に「カブトガニ」という場合、カブトガニ類全般を指すことも多いが、正確には日本周辺に生息する一種を指す。

日本・台湾・中国沿岸・東南アジアに生息するカブトガニは4種類のうちでも最大サイズで、メスの体長は85cmに達するほど。地域によっては卵や肉を食用とすることもある。
ミナミカブトガニ

南アジア〜東南アジアに生息するカブトガニ。体長は25cm〜50cmほど。水深40mより浅い海に生息し、カブトガニ類の中で唯一外洋を泳ぐ種でもある。
マルオカブトガニ
最大体長40cmほどの最小のカブトガニ。こちらも南アジアと東南アジアに生息している。

マルオカブトガニは時期によってはフグの毒として有名なテトロドトキシンを持っていることがある。カブトガニを食用とする地域では食中毒が発生することもあるようだ。
アメリカカブトガニ

アメリカ合衆国アラスカ州やメキシコ湾に生息するカブトガニ。カブトガニ類の中では最も研究が進んでおり、医療への活用も盛んな種だ。
カブトガニの血液は薬開発に必須
カブトガニは銅を豊富に含んだ青色の血液を持っている。この青い血液は多くの人類を救ってきたことを知っている人はまだまだ少ないようだ。

カブトガニの血液にはLALと呼ばれる特殊な成分が含まれている。このLALを抽出して作られるLAL試薬を使うことで、開発中の薬やワクチンに含まれた微量の毒素を検出することが出来るのだ。1970年代には薬品などの検査に使用されはじめ、現在でも医学の進歩に役立っている。

LAL試薬を作り出すためには生きたカブトガニの血液が不可欠だ。メキシコや大西洋沿岸では生きたカブトガニを捕獲し、採取台に固定してから血液の30%ほどを抜き取る活動が行われている。もちろん、血液を抜き取った個体は海に返されるのだが、体力を消耗したカブトガニの多くが命を落としてしまうそうだ。
カブトガニの生息数は年々減少傾向にある。カブトガニの血液の代替品となる薬品の開発も進められているがまだまだ実用段階には至っていないという。
無数の人類を救ってきたカブトガニたちに感謝したい。