オウムガイ
オウムガイとは、オウムガイ科オウムガイ属に分類される軟体動物。カイという名前の通り貝殻を持っているものの、タコやイカと同じ頭足類だ。

約5億年前に誕生した祖先の特徴を色濃く残していることから、「生きた化石」の代表種としても有名となっている。
美しい縞模様の殻に、髭のような触手。どこか死んでいるような奇妙な眼。多様な海洋生物の中でも、特に奇妙な体を持った生き物だ。
オウムガイの名前の由来
和名であるオウムガイの由来は、殻の縁の上部にある黒い部分が鳥のオウムのクチバシに見えることから名付けられた。

また、英名では、ギリシャ語で「水夫、船舶」を意味する「ノーチラス」という名称が付けられている。
ちなみに、オウムガイの持つ「浮上・潜水」の仕組みは、現在の潜水艦と同じものであり、アメリカの原子力潜水艦にも「ノーチラス」という名称が付けられているそうだ。
オウムガイの生息地
オウムガイが生息するのは、南太平洋〜オーストラリア周辺にかけての海。水深100-600m程度の深い海で生活している。

日中は深い場所にいるが、夜間になると比較的浅い場所に移動するそうだ。
深海魚というイメージの強いオウムガイだが、水深800mを超える深海では水圧で殻が割れてしまうため、それほど深くは潜れないらしい。
オウムガイの殻
オウムガイは巻貝のような殻を持っているが、殻の構造は貝のものとは大きく異なる。
巻貝の殻が円錐型(ソフトクリームの形)に成長するのに対し、オウムガイの殻は平面(棒突きキャンディの形)に成長していく。

また、巻貝の多くが殻の奥まで身体が入っているのに対して、オウムガイの殻の中はガスの詰まった空洞になっており、これによって浮力を得ることができるのだ。
この殻の形状は、古生物であるアンモナイトと同じ構造であるため、アンモナイトの身体部分を復元する際には、オウムガイが参考にされた。
オウムガイの触手
殻に入ったイカのような見た目のオウムガイだが、よく観察してみると全く違う生物であることが分かる。その代表的な例が腕の数だ。タコの腕が8本、イカが10本なのに対し、オウムガイは90本以上もの触手を持っている。

触手には吸盤はなく、触手にあるシワを使い獲物や岩場に吸着するのだ。これほど多くの腕を持っていながら、タコやイカのように触手を使って泳ぐことはない。

また、ずきんと呼ばれる目の上にある帽子のような部分は2本の触手が融合し分厚く変化したものだ。この変形した触手を使う事で、殻に蓋をする事もできる。
オウムガイの目の構造
短い柄を介して左右についた目は、外側が平らになった独特な形をしている。

実は、オウムガイの眼にはレンズが無く、穴が開いているだけ。まさにピンホールカメラと同じ構造をしているのだ。
イカやタコと違い眼にレンズがないため、視力がとても悪く、動く獲物を捕らえることはできないらしい。
オウムガイの食性
イカやタコはエビなどの獲物を捕らえて食べるが、オウムガイは動きがとても遅く、捕食能力はほとんどない。

そこでオウムガイたちが選んだ主な食料が、死んだ魚介類や、エビやカニが脱皮した後の殻だ。これらの餌を無数の触手で絡め取り、触手の付け根にある口から食べる。
オウムガイの泳ぎ方
俊敏な動きができるイカや、狭い岩場を這いずり回ることができるタコと異なり、オウムガイの移動能力は乏しい。
オウムガイの殻の中には一定の間隔で仕切られた空洞があり、中にはガスと液体が入っている。このガスと液体の比重を変えることで潜水艦のように浮き沈みをコントロールするのだ。
比重のコントロールは思った以上にシステマチックだ。彼らは液体の塩分濃度を増減させる事で浸透圧を変化させ、隔壁内の水分量を調整することができる。水分を増やせば沈み、減らせば浮くという仕組みだ。
また、90本もの触手を持っているが、泳ぐ際には触手を使うということはない。触手の付け根にある漏斗と呼ばれる器官から水を吐き出すことで推進力を得る。

身体の形状からも察しがつくように、スピードを出すことには向いておらず、ゆらゆらと身体を揺すりながら移動する。
ちなみに、イカやタコは身を守るために漏斗から墨を吐くが、オウムガイは墨を持っていない。仮に墨を持っていたとしても逃げ切れるほどの運動能力が無いのだ。
オウムガイの寿命
タコやイカは1年〜数年ほどで寿命が尽きるが、オウムガイは十数年〜20年以上も生きると言われている。
かつて、殻を持っていたイカやタコは、繁殖力を高めるために殻を完全に退化させ、早い成長速度を手に入れた。成長が早ければ、その分子孫を残すスパンも早くなるのだ。
これと対し、殻を残したオウムガイは殻の生成に時間がかかるために成長速度が遅くなっており、寿命が長くなっている。
一見、効率が悪いようにも感じるが、オウムガイたちは5億年もの昔から、ほとんど姿を変えずに細々と生き残っている。
オウムガイは生きた化石
大昔の祖先の特徴を色濃く残したまま生き残っている生物のことを「生きている化石」という。オウムガイも生きた化石の代表種だ。
オウムガイの祖先は約4億5000万〜5億年前に誕生したチョッカクガイのような生き物だ。チョッカクガイはオウムガイと共通の祖先を持つ古生代の貝で、槍のような殻を持っていた。
オウムガイの殻の形状は中生代に繁栄したアンモナイトによく似ているが、オウムガイの直系の祖先の方がより古くに誕生している。

かつては大繁栄したアンモナイトだが、彼らは白亜紀末の大量絶滅期に絶滅してしまっている。周囲の生物が死滅していく時代を、オウムガイたちは生き残ってきたことになるのだ。
オウムガイはアンモナイトの子孫?
殻の形状からオウムガイがアンモナイトの子孫であると思っている人もいるようだが、これは間違いだ。

オウムガイの直系の祖先が誕生したのは4億5000万年以上前だが、そこからアンモナイトが誕生するのは3億5000万年前だ。
その後、白亜紀末の大量絶滅期にあたる6600万年前にはアンモナイトは絶滅してしまっている。
ちなみに、分類上のアンモナイトはオウムガイよりもイカやタコと近いと考えられているが、アンモナイトの身体部分は化石として発見されていないため、アンモナイトがどんな身体を持っていたのかは分かっていない。
オウムガイの味は?食べることができる?
フィリピンのセブ島周辺の島々では、オウムガイを捕らえて食用とする文化があるそうだ。
竹でできた大きなカゴに鶏肉などの餌を仕掛け、半日ほど沈めておくことでオウムガイを捕らえることができるという。

気になる味の感想は、「イカと貝の中間、ホタテのよう、味の薄い貝、甘い」など食べた人によって様々。身はゴリゴリとした硬い食感とのことだ。
鮮度や個体差による味の違いもあるだろうが、口に合うかどうかは人を選ぶらしい。
ちなみに、現地では高級食材とされており、漁師たちは1日数匹捕まえるだけでも儲けものだとか。
オウムガイの殻の入手方法
オウムガイは魅力的な生物だが、オウムガイ好きが高じて「オウムガイの殻が欲しい!」と思う物好き(?)も多いようだ。

オウムガイは、死んで身体が無くなると、ガスの浮力によって殻が浮きやすく、遠く離れた海岸などに流れ着く事も多い。運が良ければ日本の海岸でもオウムガイの殻を見つけることができる。
また、フィリピンなど東南アジアの一部地域ではオウムガイの殻を工芸品に加工し、お土産として販売している地域もある。
しかし、現在では貝類の資源保護の観点から貝殻の国外への持ち出しが禁止されているようだ。乱獲を防ぐための素晴らしい措置だが、コレクターにとっては残念なお知らせだ。
ただし、現在日本に存在する殻の取引は違法では無いため、ネット通販などでも手に入れることができる。欲しいという人がいれば要チェックだ!