流氷の天使クリオネ。あまり生き物に興味のない人でも名前くらいは聞いたことがあるであろう【国民的生物】だ。
「クリオネを知らない!」と言う人は少ないだろうが、逆に「クリオネに詳しい!」と言う人もあまり見かけない気がする。 そこで今日は【みんな大好きクリオネ】の知らせざる生態や分類、何を食べていて、寿命は何年なのか?といった疑問に迫りたいと思う!
クリオネ
クリオネは【軟体動物門腹足綱裸殻翼足類ハダカカメガイ科】というグループに属する生物の通称。

ひとくちにクリオネと言っても、実はクリオネという生き物は一種類だけではなく、世界各地で数種類が発見されているらしい。
体長数mmの小さなものから10cm程度にまで成長する大型のものまで複数の種が存在している。
大量に集まると少し気持ち悪いよね。
翼のような『翼足』を持ってはいるものの遊泳能力に乏しく、プランクトンとして海の中を漂う貝の一種という訳だ。
クリオネの分類
クリオネはハダカカメガイという名前の通り貝の一種だ。

サザエなどと同じ巻貝の一種なのだけど、成長とともに完全に貝殻を失うことが分かっている。
巻貝の仲間で殻が無い生物といえばナメクジ。ナメクジも元々はカタツムリのような巻貝だったわけだが貝殻が退化しているのだ。

ちなみに、クリオネやナメクジのように貝の仲間なのに貝殻が退化してしまうことを「ナメクジ化」と言うそう。変な呼び方・・・。
クリオネの別名
ハダカカメガイは巻貝の一種にしては珍しく人気の生物。カタツムリやサザエを見て「可愛い!」という人はあまりいないが、クリオネだけは別格だ。

透き通った身体や海中でヒラヒラと優雅に羽ばたく姿を見て「美しい!」と感じる人も多い。
日本では、クリオネの他にも『氷の妖精』や『流氷の天使』ともいわれて親しまれている。
海外の英語圏では、クリオネを含めた裸殻翼足類のことを『sea angel(海の天使)』とも呼ぶこともあるそうで、世界共通の美しさを持っていることがわかる。
クリオネの生息地
クリオネが生息するのは、海水温の低い冷水域。水面近くから1000mを超える深海まで生活圏としている。

クリオネというと北極側の海に生息するイメージが強いが、南極側の冷水域にも広く分布しているそうだ。
日本でも北海道沿岸などの地域で見つけることができ、毎年冬場になると北から流れつく流氷とともに水面近くにまで姿を表す。
クリオネの新種は日本で見つかった
2017年には新種のクリオネが日本で発見され話題を呼んだ。
2016年8月、富山大学大学院の教授らが児童向けの海洋教室を開催した際に、富山湾沖にてクリオネを発見。

その後の調査によって、水深約250m-1050mの水温2度以下の海域に生息していることがわかった。
遺伝子解析の結果、2017年に入って世界で5種目となる新種であることが確認されたのだ。
クリオネって寒い時期にしか見れないイメージが強いけど、夏場の海でも深海で生活しているんだね。
クリオネの名前の由来
クリオネという名前は、ギリシア神話に登場する『クレイオー』という女神に由来している。
クレイオーは文芸を司る9人の女神からなるムーサイの一人。ムーサイのうち「英雄詩」と「歴史」を司る女神とされている。

フェルメールの1666年頃の絵画『絵画芸術』に描かれたクレイオー
なぜ、ハダカカメガイがクレイオーと結びついたのかはわからないが、きっとクリオネの姿から女神的なオーラを感じたのだろう。
これは余談だけれども、このクレイオーさん。かの有名な愛と美と性を司る女神『アプロディーテー』に対して
「女神の身であるにもかかわらず、人間アドーニスに恋をしやがって!」
と言ってしまったがために、逆ギレされて呪いをかけられてしまうことになる。アフロディーテ呪いかけすぎだろ。
クリオネの身体
クリオネは巻貝の一種であるが、僕たちが普段食べている貝とは似ても似つかない身体を持っている。
ここではクリオネの体がどのようなパーツによって構成されているのか見ていこう。

クリオネは内臓などの一部の器官を除いて半透明な身体を持つことは有名。肺やエラなどはなく、海中の酸素を皮膚呼吸によって吸収するらしい。
両サイドに生えた翼のような部分は『翼足』と呼ばれ、ヒラヒラと羽ばたいて泳ぐことができる。
しかし、波に逆らって泳ぐほどの力は無いためプランクトンとされている。
てっぺんに生えた猫耳のようなものは触覚。2本の触覚の間には口がある。

食事の際には口の中からバッカルコーンといわれる6本の触手(口円錐)が飛び出す。もうこれは完全にエイリアン。
口から内部に続いているのが、食道と唾液腺で、胴体部には消化器官も確認できる。
一見、綺麗なクリオネだけどパーツごとに見ていくとちょっと気持ち悪いね。
クリオネの食性
大人しそうなイメージのクリオネだけど、その食性はガッツリ肉食系。
クリオネの代表種であるハダカカメガイ(Clione limacina)の場合、幼年期には植物性プランクトンをろ過捕食しながら成長するが、成体になると小動物を捕食する完全な肉食性となることがわかっている。
成体になった後の主な捕食対象は、クリオネと同じ翼足類であるミジンウキマイマイという浮遊性の巻貝。
嗅覚によってミジンウキマイマイを見つけると、触手を伸ばして捕獲してから養分をじっくりと吸収するのだとか。意外とエゲツない。
ちなみに、成体のクリオネは飢餓にとても強いらしく、長いものでは1年間も何も食べずに生きていけるそうだ。
一時期、『クリオネを瓶に詰めれば冷蔵庫で飼育できる!』なんて話が流行ったけど、あれは長い時間をかけてクリオネを餓死させていただけだったのだ。かわいそうに。
クリオネの捕食方法がヤバイ
クリオネといえば普段の優雅な姿からは想像もできない捕食方法が有名。
早速、クリオネの食事シーンを捉えた動画を見てもらいたい。
大好物のミジンウキマイマイを見つけたクリオネは、頭頂部にある口の中からバッカルコーンと呼ばれる6本の触手を伸ばす。
触手で獲物を絡め取ると、抱きかかえるような形でジワジワと養分を吸収していくのだ。
一説によると、一回の食事に6時間もの時間をかけることもあるのだとか。
天使や妖精といった別名が付けられているものの、捕食時には悪魔のような形相に変貌するんだね。
クリオネの交尾が優雅
食事の際の悪魔のような姿とは異なり、クリオネの交尾は優雅で美しいと言われることも多い。
クリオネはカタツムリやミミズなどと同じく雌雄同体の生物。1個体がオスにもメスにもなれるのだ。

パートナーを見つけたクリオネは、互いに生殖器を伸ばして相手の体にくっつく。生殖器の途中から伸びる吸盤のような触手でパートナーと離れないようにするのだ。
この吸盤によって体に傷跡が残るのだが、クリオネの成体の中には複数の傷跡を持つプレイボーイ?も存在するのだとか。
クリオネの交尾はとてもゆっくりしており、4時間以上もくっついたままであることも多い。
交尾中の2体のクリオネは、体を寄り添わせながらヒラヒラと優雅に泳ぐ。見ていてとても美しいそうだ。
交尾を終えると、約150~3000個の卵が集まったゼリー状の塊を海中に放出する。
卵は3〜4日で孵化し、クリオネの赤ちゃんが誕生するのだ。
クリオネの成長と寿命
生まれたばかりのクリオネは壺のような殻を持っている。この時期を「ヴェリンジャー期幼生」というそうだ。
この時期は、肉食性ではなく、植物性プランクトンを濾して食べる。離乳食のようなものだろうか。
それから、2週間後ほどで殻を捨て、体に繊毛を持った「多輪形幼生」と呼ばれる時期を経て、約1年ほどで成体になる。
クリオネの寿命は約2-3年ほどであると考えられているが、そのうち1年間も何も食べなくても大丈夫というから驚きだ。
クリオネを食べる?スーパーで販売されていることも!
以前、普通のスーパーで「クリオネの瓶詰めが販売されている!」と話題になったことがある。
もしかすると、クリオネが獲れる地域の人々はクリオネを郷土料理として食すのだろうか?
よくよく調べてみると、スーパーで販売されていたクリオネは鑑賞用とのこと。たまたま網にかかったクリオネを鑑賞用として販売している店があるのだそうだ。
生物飼育のプロが集まる水族館においても、クリオネの長期飼育は難しいとされるくらいなので、なんだかかわいそうな気もするよね、
クリオネはどんな味?美味しいのか?
スーパーで販売されていた瓶詰めクリオネは鑑賞用とのことだったが、食べることはできないのだろうか?
僕たちは他の生物の命を頂いて生きている。クリオネだって食べれるのであれば立派な食料だ。

ネットで味について調べてみたところ、シンナー臭い味であるとのこと。とても食用に向いているとは言い難いようだ。
クリオネはまだまだ未知の生物
今回は流氷の天使『クリオネ』に関する様々な生態についてまとめてみた。

クリオネの生態については未だに分かっていない部分も多く、今後の研究によっては新しい事実が判明するかもしれない。
フワフワ海中を漂う未知の生物クリオネに想いを馳せる日々が続きそうだ。