2020年――。新型コロナウィルス『COVID-19』が世界各地にパンデミックを引き起こしている中、センザンコウという哺乳類に注目が集まっている。
センザンコウの身体から新型コロナウィルス『COVID-19』に類似したウィルスが発見され、中国武漢市から発生したと言われる『新型コロナウィルス』の感染源になった可能性が浮上しているのだ。
さらに、このセンザンコウがマレーシアから中国へと違法に密輸されていた個体だったため、各方面からの批判の声も高まっているのだ。
この日本ではあまり聞きなれないセンザンコウという生物…一体どんな動物なのだろうか?
今回は、センザンコウの生態や特徴、乱獲と密輸によって絶滅危惧種となっている現状について。センザンコウのかわいい画像とともにピックアップしていこう!
センザンコウ
センザンコウとは?
センザンコウとは、鱗甲目(りんこうもく)というグループに分類される哺乳類の一種。アフリカ大陸のサバンナやアジアの森林に生息している。
センザンコウは漢字では「穿山甲」と書くが、中国の古い文献などを確認すると「鯪鯉」と記載されているものも存在する。センザンコウにはウロコがあることから、かつては魚の仲間であると考えられていたようだ。英名では「パンゴリン」と呼ばれ、ポケモンのサンドパンのモデルになった生物としても知られている。
全身を鱗に覆われた異様な姿は「珍獣」の名にふさわしい。人間の爪の成分と同じケラチン質で構成される約300枚のウロコは、頭部から尾の先端にまで伸びている。その総重量は体重の20%にも及ぶそうだ。
南米大陸に生息するアルマジロに似ていること、長い舌でアリを捕食することなどから「アルマジロやアリクイの仲間」と思われていたが、実際には全く異なる生物だということが判明している。見た目によらず、犬や猫、熊などと同じ『食肉目』というグループに近い遺伝子をもっているようだ。
ネット上では「センザンコウかわいい!」と話題なることもある人気の生物だが、現実は乱獲によって絶滅の危機に瀕している生物として知られている。
センザンコウのウロコは一部地域で漢方薬に利用されており、国際的に取引が禁止された現在でも、密猟が後を絶たないという。
センザンコウの生息地
センザンコウの生息地はアジアとアフリカ。中国・マレーシア・インド・フィリピンなどのアジア各国に4種、アフリカ大陸で4種のセンザンコウが確認されている。
センザンコウには、森林に生息し樹上生活を送る種と、陸上で生活する地表棲の種が存在し、同じセンザンコウといっても生息地によって異なる生態へと進化している。
センザンコウは、アジア・アフリカのどちらの生息域においても乱獲によって個体数が激減している。すぐにでも手を打たなければ遠くない未来、センザンコウは絶滅すると考えられている。
センザンコウの大きさ
センザンコウの中でも大型のオオセンザンコウは体長75-85cmほど。体長には尾は含まれないので70cm程度の尾を含めると全長1.5m近くになる。思ったよりも大きな生物なのだ。
一方、木に登ることができるオナガセンザンコウは体長30cm程度と身体自体はそこそこ小さいが、尾は50cm以上と長い。樹上生活を送るセンザンコウは長い尾を木の枝に巻きつけることでぶら下がることもできるのだ。
樹上性のセンザンコウにも重いウロコが付いているが、木登りはかなりうまく、数十mの高さであっても鋭い爪を突き立てて、いとも簡単に上り下りする。
センザンコウの食性
センザンコウの食性は、アリやシロアリ、その他の昆虫類の幼虫などを捕食する肉食性。
センザンコウは舌がとても長く、種類によっては40㎝にも達する長い舌を持っている。この長い舌を使う事で、アリクイやツチブタなどと同じように昆虫類を舐めとることが出来る。
最大200gほどの昆虫を1日で食べると言われており、活動中はほとんどの時間を食事探しに充てているようだ。
センザンコウは1日の大半を寝て過ごす省エネ動物としても知られており、1日当たり20時間近く睡眠するため残りの4時間は食事を行うので精一杯なようだ。
攻守に優れたウロコ
センザンコウは体毛が変化したウロコを持っている。ウロコは松ぼっくりのように重なり合っており、先が尖っているのが特徴的だ。
この鋭利なウロコがついた尾は、スパイクのように振り回すことも可能で、天敵であるライオンやトラ、ヒョウなどの大型肉食獣を追い払う事もある。同じ特徴を持つ恐竜「アンキロサウルス」と称される事もある武闘派なのだ。
センザンコウと特徴がよく似たアルマジロのウロコは、甲羅としての役割しか持たないが、センザンコウのウロコは定期的に生え変わり、刃物のように鋭く尖っていることから、振り回すことで攻撃を与える効果もある。
では防御が弱いのかというと、そうでもないらしい。アルマジロで身体をキレイに丸めることができるのはミツオビアルマジロ一種のみだが、センザンコウは折り重なったウロコを利用した「完璧な丸まり」を実現している。
強度に関しても問題無いらしく、ライオンの引っ掻きや噛み付きなどの攻撃すらも防ぐことができるという。
センザンコウのウロコは漢方薬?その効果とは…
センザンコウの肉は、古くから中国やベトナムにおいて食用として使用されていた。また、ウロコは漢方薬や革製品としても重宝されてきた。
センザンコウのウロコは乾燥されたのち錠剤へと加工され、伝統薬を扱う市場や店舗などへ陳列される。これらの伝統薬は大手製薬会社によって製造されているものも多いが、その原料となるセンザンコウは違法に密猟されたものである可能性も高いと言われている。
センザンコウのウロコには、皮膚病や関節痛の治療、乳の出が良くなる・癌への抑制効果があるなどと伝えられているが、「薬と呼べるほどの科学的根拠がない」と指摘する専門家も多い。
実際、センザンコウのウロコの主成分は人間の爪や髪の毛と同じケラチンで構成されており、人体に何の影響も及ぼさないのだ。センザンコウのウロコが数々の身体の不調に効果があるのであれば、人間の伸びた爪や髪の毛をを飲みこむことで十分なのだ。
センザンコウは絶滅危惧種
中国国内のセンザンコウは乱獲の結果1990年代にはほとんど見られないほどに生息数が激減している。それでも飽き足らずアフリカに生息する別のセンザンコウを輸入することで国内の需要を賄ってきた。
現在ではセンザンコウの国際取引は禁止されているが、アフリカでは10年間で少なくとも100トンを超えるウロコが、アジア向けに密輸されていたことが判明している。
アジアに生息するセンザンコウは、2007年時点では絶滅危惧種に指定されていなかった。しかし、アジア圏内での乱獲の結果、たった10年ほどで絶滅危惧種に指定されるほどに激減してしまったのだ。
現在、アジア圏内でのセンザンコウの捕獲は難しくなっているため、違法なバイヤーたちはアフリカのセンザンコウの密輸を続けている。今ここで密輸を食い止めることが出来なければ、数年後という近い将来、アフリカのセンザンコウまでもが絶滅へと進むことになる。
現在も続くセンザンコウの虐殺
ある試算によると過去10年間で捕獲されたセンザンコウは100万頭におよぶと言われている。1Kgあたり3000ドルで取引されることもあると言われるセンザンコウは、密猟者にとって格好の獲物となっているのだ。
天敵に出会うと丸くなる習性を持つセンザンコウは、追いかけたり罠を仕掛ける必要もない。反撃の手段を持たない大人しい性格が災いし、簡単に捕まってしまう。
密猟者たちは数十匹のセンザンコウを一つの袋に投げ込み、身動きや呼吸すらもままならない状態で違法に輸送される。
センザンコウの生息地であるアフリカには、現在も目を背けたくなるほどの残酷な光景が広がっている。しかし、センザンコウを消費する立場にあるアジア圏内では、センザンコウが虐殺されている現状が報道されることは少ない。
この日本においても、かわいい犬や猫を取り扱う動物番組は毎週何本も放送されているが、センザンコウを見かけることはほとんど無い。
センザンコウを守るために今私たちにできること、それは「センザンコウの使われている漢方薬・革製品・楽器・肉」などのあらゆるセンザンコウ製品を買わない事。そして、多くのアジア人がセンザンコウについて興味を持てるように発信していくことだけだろう。