2001年…インド洋の深海から「身体を鉄のウロコに包まれた奇妙な巻貝」が発見された。後にスケーリーフット(=ウロコフネタマガイ)と名付けられることとなる不思議な深海生物だ。
体表に硫化鉄をまとった奇妙な金属生命体の発見が発表されてから20年近くたった今、スケーリーフットの生態の謎が少しづつ解明されつつある。
今回は、スケーリーフット(ウロコフネタマガイ)の特徴や生態のほか…ウロコフネタマガイは磁石につっくつのか?身体の鉄は成長とともに錆びるのか?といった疑問についてピックアップしていこう!
スケーリーフット(ウロコフネタマガイ)とは?
スケーリーフット(和名ウロコフネタマガイ)は、インド洋の深海2000m以深の熱水噴出孔に生息する巻貝の一種。大きさは殻の直径で最大45㎜程度と一般的な巻貝と大差ない。
体表には硫化鉄でできたウロコを持っており、骨格(殻)に金属を用いる唯一の多細胞動物とされている。
性別はなく、ナメクジやアメフラシ、ミミズなどと同じ雌雄同体。一つの身体にオスとメスの生息器官が付いており、相手を選ばず子孫を残すことが可能だ。
スケーリーフットの生息地
スケーリーフットは複雑な体を持った生物でありながら、生息環境は2000m以上深い海にある水温300℃を超える熱水噴出孔だけ。それもインド洋の「かいれいフィールド」と呼ばれるスポットのみ。
この「かいれいフィールド」は、西太平洋と大西洋の生物相がぶつかるエリアとなっており、独自に進化を遂げた希少な深海生物が多数発見されているそうだ。
2009年には日本の有人潜水調査船「しんかい6500」が、スケーリーフットの採取を行ったこともある。このときの記録によると、スケーリーフットは熱水噴出孔の周りを囲むように数千体もの群れを成して生息していたそうだ。
スケーリーフットの身体の特徴
鉄の貝殻
通常、貝殻の構成は炭酸カルシウムの結晶とタンパク質を主成分とする物質で出来ているが、ウロコフネタマガイの貝殻は硫化鉄を主成分とする金属製。
貝殻は3層構造になっており、表面の約30μm※が硫化鉄でコーティングされている。ちなみに内部の方は普通の貝殻と同じような炭酸カルシウムの1種だ。
ウロコフネタマガイの生息する熱水噴出孔周辺の水は硫化物と金属の濃度が高くなっており、これを鱗に取り込むことで【世界で唯一金属の骨格を持つ貝】へ進化したとみられている。
貝殻は磁石にくっつく?錆びる?
スケーリーフットの貝殻は表面が硫化鉄でできているため磁石でくっ付けることができ、錆びることもあるようだ。
2006年、しんかい6500により採取された184匹のスケーリーフットは、支援母船「よこすか」へと持ち込まれ、飼育実験が開始されるも徐々に身体が錆びてしまったそうだ。
「錆び」は、金属が空気中や水中などの酸素の影響を受け「酸化」してしまう事が原因で起きる現象だ。このことからスケーリーフットが飼育下で徐々に錆びたのは、海水中の溶存酸素量が身体が原因だと考えられている。
スケーリーフットの食べ物
ウロコフネタマガイが棲む熱水噴出孔周辺には化学合成生態系と呼ばれる独自の食物連鎖が形成されている。化学合成生物は有機物や無機物を酸化させることによって得られる電子を細胞のエネルギーとする。
スケーリーフットは消化管の組織中に共生細菌を保持しており、ここから得られるエネルギーによって生活しているそうだ。
人間や動物、一般的な魚などが植物などの光合成によって作られたエネルギーによって生きているが、光の届かない深海の生物は光合成の食物連鎖とは全く異なる生態系を持っているのだ。