世界にはたくさんの『不思議な動物たち』が存在しますが、『カモノハシ』という動物はその中でも特に奇妙な生き物といえるでしょう。
哺乳類なのにクチバシがあって、しかも子供を卵で産む。さらに強力な『毒』を持っているのです!
今回は、そんなカモノハシの不思議な生態と身体の特徴、あまり知られていない雑学などについてご紹介します!
カモノハシ
カモノハシとは?
カモノハシは【哺乳綱単孔目カモノハシ科カモノハシ属】という種類に分類される哺乳類。
カモノハシの特徴は、なんといっても『哺乳類らしくない』ことでしょう。ビーバーのような体つきに哺乳類らしい体毛を備えていますが、頭部には鳥類のようなクチバシを持ち、四肢はアヒルの水かきのような水かきに鋭い爪を備えています。尾は平べったく潰れており、まるで車にでも敷かれたかのような形。
カモノハシの事を知らない人が見れば『鳥』として認識するかもしれません。さらに、子どもを卵で産む『卵生』であるという哺乳類にしては珍しい生態を持っています。
カモノハシの生息地
カモノハシは、オーストラリア東部に位置する『クイーンズランド州東部、ニューサウスウェールズ州東部、ビクトリア州などの限定された地域』と『タスマニア島などの一部の島』にのみ生息しています。
世界中の人々に知られている動物なのに、実は極端に限られた地域にしか生息していません。
「なぜカモノハシのような生物は、この地域にしか生息していないのか?」という疑問の答えは諸説ありますが、「カモノハシのような生物はかつて世界各地に生息していた」という説が有力なようです。
世界中にいたカモノハシのような生物の多くが、生存競争に敗れるなどの理由で姿を消していきました。中には、まったく違う生物に進化した者もいたかもしれません。しかし、運の良いことに現在のカモノハシには天敵が現れませんでした。オーストラリアが他の地域と海で隔てられていたため、生存競争に敗れることなく現代まで生き残っていると考えられているのです。
そんなカモノハシの生息環境は、熱帯~亜熱帯雨林の湖畔や河川など。哺乳類というと森の中で生活しているイメージが強いですが、カモノハシは「ヌートリア」や「カワウソ」などのように水辺を好んで生活しています。
カモノハシの身体の特徴
カモノハシが世界的に有名な理由の一つとして、哺乳類とは思えない身体を持っていることが挙げられます。ここでは、実際の写真や動画を見ながら、各パーツについて詳しく見ていきましょう。
①ゴムのような柔らかいクチバシ
人間や猿、犬やネズミなど、哺乳類といえば、その多くが『歯』を持っているイメージが強いです。しかし、カモノハシは哺乳類に多く見られるような歯を持っておらず、その代わりに鳥類のような『クチバシ』を持っています。
どちらかといえばアヒルやカモのような平たいクチバシで、触ってみると鳥のクチバシのような硬さは無く、ゴムのように柔らかいそう。
カモノハシはクチバシが発達したがために「歯が生えるスペースや必要性が無くなったのではないか?」と言われています。もぐもぐと咀嚼をすることはありませんが、獲物を捕らえた際にはクチバシの付け根にある角質板を使って噛み砕いて食べることができるのです。
②哺乳類なのに乳首がない
哺乳類はその名の通り「子どもに母乳を与える動物」の事。イルカやクジラが哺乳類という事は有名ですが、彼女たちだって水の中で母乳を子供に与えるのです。もちろん、カモノハシも哺乳類というくらいだから子供に母乳を与えます。
しかし、驚くべきことにカモノハシには乳首(乳頭)がないのです。乳首がないのにどうやって授乳するの?と疑問に思う方も多いかもしれません。
実は、カモノハシのお腹には乳首はありませんが、『乳腺』という母乳が分泌される部分があります。その乳腺から分泌された母乳は、じわじわと腹部の体毛に染み出し、その母乳を子どもたち舐めさせるのです。
何だか面倒な与え方にも感じますが、よくよく考えてみると、カモノハシの持つ鳥のようなクチバシでは普通の哺乳類のように乳頭を吸う事ができないので、この方法が一番合理的なのかもしれませんね。ちなみに赤ちゃんは4~6カ月ほどで乳離れし、自ら食料を捕まえるようになるそう。
③鳥のような水かき
カモノハシは水の中での狩りを得意としている。そのため、カモノハシの前後の脚には『アヒルの足』のような『水かき』がついています。
指の間を繋ぐように張られた水かきは、陸地を移動する際には折りたためるような構造になっており、『歩く・穴を掘る・泳ぐ』などの様々なシチュエーションに対応できる万能型。同じく水かきを持っている『アヒル』や『カモ』とは一線を画す性能です。しかも、泳ぐスピードも意外と速いそう。同じく水辺での生活を得意とする『ヌートリア』や『カワウソ』と見比べてみても、かなり高性能な脚を持っているようです。
④毒性のある爪
カモノハシのオスの後脚の爪に『毒』があるということはあまり知られていません。しかも、かなり毒性が強いようで、イヌ程度の大きさの動物なら死に至る可能性もあるらしい。
カモノハシ特有のタンパク質などから構成されるとのことですが、なぜ雄の後脚だけに毒があるのかについては研究者の間でも意見が分かれているようです。雄同士の喧嘩に使われるなんて説が有力なようですが、引っかかれた相手は死んでしまわないのでしょうか?
ちなみに、人間であれば致死的とまでは至らないものの、ひとたびカモノハシの後ろ爪で引っかかれると、患部は急速に腫れあがり、全身に浮腫(むくみ)を広げながら強烈な痛みが走るといいます。
最悪の場合、持続的な痛みによる感覚過敏症となり、数か月も苦しむ羽目になるとのこと。この症状は同じオーストラリア原産のギンピギンピという植物にも似ていますね。何だかオーストラリアが怖くなってきた。
⑤腸(肛門)・尿道・卵を産む穴が同じ
カモノハシは外観も鳥のようですが、体の構造も鳥に似通っている点があります。
カモノハシは、おしっこする為の尿道・ウンチをするための肛門・さらには卵を産む穴(子宮)など、様々な器官から繋がった穴が一つにまとめられている。つまり、おしっこもウンチも出産も同じ穴から行われるのです。これは軟骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類などが持つ特徴であり、ほとんどの哺乳類は複数の穴を持っていることも分かっています。
カモノハシと近い特徴を持つハリモグラ
この構造は、哺乳類の中では『単孔目』であるカモノハシ科とハリモグラ科などが持つ特徴で『総排出腔』というもの。カモノハシとハリモグラ。どちらもオーストラリアしか生息しない動物だということに、なんだかロマンを感じますね。
カモノハシの不思議な生態
カモノハシが奇妙なのは体のパーツだけではない。ここではカモノハシの生態にフォーカスを当ててみましょう。
①哺乳類なのに卵を産む
カモノハシの生態の中で、最もインパクトが強いのが『哺乳類なのに卵を産む』という事でしょう。
カモノハシは夏頃になると繁殖期に入ります。パートナーを見つけることが出来たメスは、水辺に掘った巣穴に入り、1-3個程の卵を産みます。母親となったカモノハシは、鳥と同じようにお腹と尻尾の間で卵を温め、約10日後には数センチの赤ちゃんが卵を割って生まれてきます。
上の動画に映っているのは、小さく体毛も生えそろっていない赤ちゃんカモノハシ。クチバシがしっかり生えているのがすごいですよね。
②水の中で目を開けれない
カモノハシは水中で狩りを行うことが出来るように泳ぎに特化した動物。器用に水中を泳ぎまわり食料を調達します。このこと自体は特別珍しくも無いのですが、面白いことに『カモノハシは水中で目を空けることが出来ない』のです。
実際に水中を泳ぐカモノハシの動画を見ても、しっかりと目を閉じているのが分かると思います。
カモノハシの主食は、水中を泳ぎ回る小魚や川底に隠れたエビやカニ。動き回る獲物相手に目を閉じていては正確な狩りなど出来そうもないのですが、カモノハシには目を開けずとも獲物の位置をシッカリと把握できる超ハイテクな機能が備わっていたのです。
②クチバシで電流を検知
カモノハシは水中では目を開けることが出来ない。しかし、水中で動き回る小魚や隠れた甲殻類を上手に捕まえて食べることが出来ます。なんと、カモノハシはクチバシの中にある『特殊な器官で獲物の生体電流を感じ取ること』が出来るのです。
動物が行動するときの、わずかな筋肉の動きから発せられる微小な生態電流。カモノハシは、この生態電流を感じ取ることによって見えない獲物の位置を完ぺきに把握しているといいます。つまり、夜の真っ暗な水中や濁って視界が悪くなった川底であっても、簡単に獲物の動きを感じ取ることができるということ。
デンキナマズ。体内の発電器官によって最大350ボルトに達する電気を発生させる。
ただ、生体電流を感じることができると言っても、デンキナマズのように電気で相手を攻撃するわけではありません。
ちなみに、カモノハシが生態電流を感じ取るセンサーを持っていることが分かったのは1986年のこと。ドイツの研究者がカモノハシを飼育している水槽にうっかり乾電池を落としたところ、カモノハシが乾電池に異常な興味を示したのがきっかけだそう。
その後の実験によって「くちばしの左側にだけ電気を感じる神経細胞があること」や「1.5Vのアルカリ電池を水に沈めると、10㎝の距離から乾電池の存在を知覚することができる」なんてことが分かったそうです。
それまでは「なんでコイツ目閉じて泳いでんの?」と思われていたことを考えると何だか笑えますね。また、カモノハシはこの電流を感じ取る器官が発達しすぎたために歯が生えるスペースが無くなったのではないか?とも考えられているそう。まさに『天は二物を与えず』と言ったところです。
③巣は穴の中
ここまで鳥のような生態であることを知ってしまうと、巣も鳥のように枝で作っているイメージを持ってしまいそうですが…
巣に関しては、ネズミなどの他の哺乳類と同じように、土に巣穴を掘って生活しています。草が生い茂った川沿いに作られた巣穴は、外敵から見つかりにくく、狩り場も目の前。駅近の一等地のような感じでしょうか。
一瞬、「川の水が氾濫したりしたら巣に水が入ってくるじゃないか!」と心配しましたが、よく考えたらこいつら泳ぎが超得意でした。
④鳴き声は普通
鳥類と哺乳類の身体の特徴を両方持っているカモノハシ。一体どんな鳴き声を発するのでしょうか?
「ガーガー」なのか「チューチュー」なのか・・・想像も付きませんが、YouTubeで調べてみると『カモノハシの鳴き声を収めた貴重な音声』を見つけることが出来ました。
どちらかと言えば鳥のような、それでいて若干ブタの声が混じったような・・・「グォォォォ」という何とも言えない鳴き声。ちなみに、カモノハシはほとんど鳴かないらしいので、かなりレアな音声とのこと。
人間とカモノハシの歴史
かつては偽物と思われていたカモノハシ
ちょっとした小話ですが、過去には「カモノハシは偽物である」と思われていた時代があったそう。
1798年、ヨーロッパ人に発見されたカモノハシ。毛皮やスケッチがイギリスに送られたのですが、それを見たイギリスの学者たちは「こんな生物が存在するはずがない。」と全力で否定したらしいです。
当時は、大きな魚の尾に猿の上半身を縫い付けた『人魚の偽物』などが出回っている時代。
学者たちはカモノハシの標本を見て、体型が似ているビーバーとカモなどの鳥類のくちばしを縫い付けて作られた『偽物』であると考えたとか。
「クチバシと頭部の間に縫い目があるはずだ!」と、必死に偽物である証拠を探した学者もいたらしいのですが、後に本当に存在する生物だったことが分かりました。
カモノハシの言い伝え
オーストラリアの先住民族『アボリジニ』に伝わる、天地創造の神話『ドリームタイム』によると、最初のカモノハシは、メスのアヒルとオスのラットの間に生まれたと言われています。
オーストラリアの先住民族アボリジニ
そんなカモノハシにまつわる言い伝えは、このようなもの。
大昔、空・陸・水のそれぞれの環境に住む動物たちが『どの動物が一番か?』を競っていました。
カモノハシは3つの条件すべてを持っていたので簡単に勝つことが出来ましたが、争いに加わることはなかったのです。さらに、カモノハシは『争いをやめ、互いに尊敬しよう!』と皆に訴えました。
これを聞いていた人間(アボリジニ)はカモノハシを尊敬し、決して食べることはなかったそうです。
よくある童話のような内容ですが、この言い伝えがなければ、生息地の少ないカモノハシは人間の乱獲に合い絶滅していたかもしれません。
ペットとして飼育できる?
カモノハシはその希少性からオーストラリア国内で手厚く保護されており、国外への輸出を禁止されています。
学術的にも貴重な生態であり、なおかつ飼育事例やノウハウが日本国内に存在しないことから、いかなる理由でもペットとして飼育することはまず不可能と考えていいでしょう。
カモノハシは絶滅危惧種?
カモノハシはその希少性から絶滅危惧種だと思っている方も多いようですが、少なくとも現時点では絶滅危惧種に指定されてはいないようです。
国際自然保護連合(IUCN)が作成した『絶滅のおそれのある野生生物のリスト』では、動物たちを9つのカテゴリに分けて絶滅の危険性を評価していますが、その中でカモノハシは『Least Concern-<低危険種>』とされており、絶滅の危険性は少ないと言われているのです。
ネット上では「希少な種である事は間違いないが、絶滅の心配はほとんどない。」と記述を見かけることもありますが、絶滅危惧種に指定されていないからと言って絶滅の心配が無いわけではありません。
豪モナッシュ大学の研究チームによると『地球温暖化の影響でカモノハシの生息地は1/3まで減少する可能性がある』とのこと。
人間の活動によって、たった50年で絶滅してしまったヨウスコウカワイルカのように、対策もとれないうちに一気に絶滅してしまう可能性だってあるのです。
カモノハシの分類と進化
ここまで変わった生態や特徴を持ったカモノハシ。一体、どのようにして進化してきたのでしょうか?ここではカモノハシの進化の歴史について見てみよう。
①いつから生息していた?
『生きた化石』といえば「シーラカンス」や「カブトガニ」などが有名。
生きた化石とは、昔から姿形があまり変わらず生き延びている生物のことを指す言葉で、カモノハシも『生きた化石』と言われることがあります。
一説によると、カモノハシに他の哺乳類から分岐したのは、白亜紀にあたる約1億5000万年前。約6500万年前の地層から見つかった化石では現在のカモノハシとの共通点も多いことから、少なくとも6500万年前にはカモノハシのような姿になった祖先がいたことになります。
カモノハシは、この祖先の特徴を色濃く残したまま現在まで生き残ってきたため、『生きた化石』と言われているのです。
②なんで卵を産むのに哺乳類なの?
「なんで卵を産むのに哺乳類なの?」といった疑問を持つ人も多いでしょう。
そもそも、哺乳類や鳥類というのは、人間が勝手に動物をカテゴリー分けしただけという事を忘れてはいけません。そして、哺乳類は「子どもを母乳で育てる動物の総称」であるため、卵を産むかどうかについては関係がないという訳です。
※哺乳類や鳥類という言葉が一般的に使われるが、生物の分類においては哺乳網や鳥綱というのが正しい。
ちなみに、哺乳類でありながら卵で子供を産む動物は他にも存在しており、同じオーストラリアに生息する「ハリモグラ」という種などがあげられます。
③哺乳類って信じられない!
ここまで不思議な生物なので「私たちと同じ哺乳類だと言われても信じられない!鳥類じゃないか!」という方もいるかもしれません。
確かに「哺乳をするから」という理由で同じカテゴリにいることには違和感を感じます。
しかし、長い生物の歴史で考えれば、ヒトもネズミもカモノハシも、鳥類も哺乳類も、もともとは海にいた生物が枝分かれして進化してきた生物。哺乳類と鳥類の特徴を良いとこ取りした生物がいてもおかしくは無いという事になりますよね。
実際に、日本・イギリス・アメリカ・オーストラリアなどの研究員らで構成されたチームがカモノハシの遺伝子を調べたところ、カモノハシの遺伝子には哺乳類の他、鳥類や爬虫類の遺伝子に見られるような特徴があることが分かったそう。全動物のハイブリットという訳ではありませんが、哺乳類・爬虫類・鳥類の中間の特徴を持ったまま、生き残ることに成功した動物だという事でしょう。
カモノハシを実際に見るには?
ここまでカモノハシの魅力を語ってきたが、これを聞いて「実際に見たい!」と思った人もいるかもしれません。
実はワニオも一時期「カモノハシみてぇぇぇぇ」と思っていたのだ。そこで、カモノハシを実際に見る方法を探してみました。
①日本で観れる?
最初に考えるのが「日本にはカモノハシいねぇの?」ということ。しかし、残念ながら今も昔も日本国内の動物園などにカモノハシが来たという記録はないそう。
現在では、カモノハシはオーストラリア政府により手厚く保護されているため、今後も日本国内で観ることが出来る可能性は少ないそうです。残念!
さらに、他国の動物園では飼育が試みられたこともあるようですが、その多くが失敗に終わっています。かなり特殊な動物という事もあり、飼育自体が難しいようです。
おそらく今後も日本の動物園などにカモノハシがやってくることはないと言われています。
②実際に見るには?
・・・となると、生きているカモノハシを見るためには「オーストラリアに行くしかない。」という事になりますね。
オーストラリア国内ではカモノハシの観察ができる施設や、自然保護区でのツアーなども開催されており、簡単にカモノハシを見ることができます。
そこで気になるのはオーストラリアまで行くための料金。調べてみたところ往復の交通費だけでも9万円を超えるらしい。
「ちょっとカモノハシ見に行ってくるぜ!」という感覚の金額ではないが、気になる方はチェックしてみては!?