「デビル=悪魔」と呼ばれる不気味な動物「タスマニアデビル」。名前の印象とは裏腹に可愛らしい見た目の人気の動物。
NHKの定番番組「おかあさんといっしょ」では「デビル・ビビる・ガンバる!」という歌に登場し、子供たちからの人気も高いらしい。
今回はそんなタスマニアデビルの生態のほか、彼らが悪魔と呼ばれる理由、不気味な鳴き声、タスマニアデビルたちの中で蔓延し彼らを絶滅に追い込むかもしれない感染性の癌についてピックアップだ!
タスマニアデビル
タスマニアデビルとは、フクロネコ目フクロネコ科タスマニアデビル属に分類される哺乳類。カンガルーと同じようにお腹に袋を持っている、世界最大の肉食性有袋類だ。

かつては家畜を襲い、屍肉すらも漁る「悪魔のような生物」として忌み嫌われたが、現在では国を挙げた保護活動が行われている。
オーストラリア南方の孤島「タスマニア島」にのみ生息する希少生物であるが、感染性のガンが蔓延した事により、ここ数十年で個体数が激減している。
タスマニアデビルの生息地
タスマニアデビルが生息するのは、オーストラリア本土の南方に浮かぶタスマニア島。

元々はオーストラリア本土にも生息していたが、人間が家畜として持ち込んだ犬が野生化したディンゴの存在が影響し、約400年前に絶滅してしまっている。
日中は穴ぐらの中で休み、夜になると獲物や屍肉を求めて活動する。
タスマニアデビルの特徴
タスマニアデビルの体長は50-60cm、尾を含めると70-90cmに達する。現生の肉食有袋類としては世界最大の大きさだ。
黒から黒褐色の体毛に包まれ、胸部にはツキノワグマのような白い模様がある。長い尻尾には脂肪として栄養を溜め込むことができ、栄養失調の個体は尻尾が細くなる。

四肢には鋭い爪を持っているが、攻撃用ではなく土を掘るためのもの。一生伸び続ける鋭い牙も、狩りの為というよりも獲物を骨まで噛み砕くことに効果があるようだ。

また、子供を育てるための育児嚢はカンガルーとは異なり後ろ向きについている。これにより、穴掘りの際に土が育児嚢に入らないようになっている。
タスマニアデビルの名前の由来
1800年代頃、ヨーロッパからタスマニア島へと多くの人々が移住するようになると、家畜を襲う害獣の存在が問題となった。

動物の屍肉を漁り、悪魔のような鳴き声を発することからタスマニアデビル(タスマニアの悪魔)と名付けられ、厄介な害獣として忌み嫌われていたようだ。
このことから、1830年にはタスマニアデビルを駆除したものに民間企業から奨励金が配布されることになり、1888年からは政府主導で本格的な駆除が行われた。
ちなみに、別名でフクログマ・フクロアナグマ・フカログズリとも呼ばれるが、熊やグズリとは分類上関係はない。
タスマニアデビルは何を食べる?
タスマニアデビルは貪欲な肉食性で、哺乳類や鳥類、昆虫など生きていようが死んでいようが何でも食べてしまう。
特に生息域が重なるウォンバットは大好物で、自身の体長の3倍以上もあるウォンバットを襲うこともあるそうだ。

Dmitry Brant CC 表示-継承 4.0
身体に比べて頭が大きいことから、顎の力がとても強く、自分より大きな動物であっても、骨まで噛み砕いて平らげてしまう。身体の大きさと噛む力の比率を考えると現生生物では最強との説もあるほど。
食べる量も桁違いで、1日に自身の体重の15%もの食事を要する。多い時には体重の40%にあたる量を30分程度で平らげてしまうという。

屍肉を食すことはタスマニアデビルが嫌われる原因の一つであったが、その後の研究では、タスマニアデビルが動物達の死骸を食べてしまうことで、死骸を元に発生する伝染病の蔓延を防いでいることも明らかになった。このことから、タスマニアデビルは「森の掃除屋」と呼ばれるようになった。
タスマニアデビルの鳴き声
タスマニアデビルが悪魔(デビル)と呼ばれる理由として「鳴き声が悪魔のように恐ろしい」というものがある。
夜行性のタスマニアデビルは、夜になると活動を始めるため人々が寝静まったころに森の中から鳴き声が聞こえてくるという。
特に餌を取り合うタスマニアデビル同士の威嚇の鳴き声は一段と激しく、かなり遠くまで響き渡るそうだ。
人間に駆除されてきたタスマニアデビル
1800年代、ヨーロッパの人々がタスマニア島に移住しはじめると、タスマニアデビルは家畜を襲う厄介な害獣として駆除されるようになった。

1830年以降は、民間企業や政府の主導でタスマニアデビルの駆除が行われ、個体数が激減することになった。害獣を駆除すると奨励金が支払われたのだ。
それから程なく1936年、タスマニアデビルとともに害獣として駆除が行われていたフクロオオカミが絶滅したことで状況は一変する。

このままではオーストリアの固有種が絶滅してしまうことに危機感を覚え、国を挙げてタスマニアデビルを保護することになったのだ。
1941年に保護法が制定されたこともあり、「気味の悪い害獣」というイメージは薄れ、「愛すべきオーストリアの固有種」という見方に変わっていったようだ。
これでタスマニアデビルは絶滅の危機を免れたかと思われたが、全く想定していなかった問題が発生することとなる。
タスマニアデビルに広がる病気
動物の死骸を食べることで伝染病の蔓延を防ぐタスマニアデビルだが、皮肉なことに現在タスマニアデビルの間で伝染病が蔓延しているのだ。
1996年に初めて報告されたデビル顔面腫瘍性疾患と呼ばれる感染性の癌により、2009年には全体の約70%の個体が減少した。
この病気は、エサの取り合いなどでタスマニアデビル同士が噛み付いた際、傷口からガン細胞が感染するという珍しい感染経路を持っている。
はじめに口の周辺に腫瘍が発生し半年もたたないうちに体中に転移する。多くの個体が顔の腫瘍が肥大化することで目や口が塞がれ、食餌を取れずに餓死する事になる。
多くの感染症は個体数が減る事で終息へ向かうと言われているが、繁殖期を迎えたタスマニアデビルがパートナーを探し求め長距離を移動することで感染の範囲は広がる一方なのだ。
タスマニアデビルは癌で絶滅するのか?
このままタスマニアデビルの病気の蔓延を放置した場合、50年以内にタスマニアデビルは絶滅すると考えられている。
人間の活動が直接的な原因とならずに、野生動物が絶滅の危機に瀕することは珍しい事だ。すでに研究者たちはタスマニアデビルの絶滅を食い止めようと動き出した。

現在では、感染していない個体と感染した個体を隔離して保護する活動や、動物公園での人工的な飼育、ワクチンの開発などが行われている。
これらの保護活動の効果もあってか、一部の地域では個体数が増加傾向にあるそうだ。さらに、タスマニアデビルの中にも、ガンに対する抵抗力の強い個体が確認され始めている。病気に打ち勝つため彼らも進化しているようだ。
しかし、大幅な個体数の減少により、生態系ピラミッドの上層にいたタスマニアデビルの地位をキツネなどの肉食動物が奪いつつあるという問題もある。
一度、生態系を奪われた生物が、元の地位に戻るのは難しいとも言われている。あとは、タスマニアデビル自身の生命力に期待するしかない。