【マッコウクジラ】驚異の潜水能力!知られざる生態に迫る

巨大な頭部と驚異的な潜水力をもつマッコウクジラ。数あるクジラの中でも独特な特徴を持つ彼らはどんな生活を送っているのだろうか。

今回はマッコウクジラの特徴と生態、深海への潜水を可能とする身体の秘密、人類の発展に欠かせなかったマッコウクジラの鯨油について紹介しよう!

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マッコウクジラ

マッコウクジラとは、マッコウクジラ科マッコウクジラ属に分類される大型のクジラ。肥大化した巨大な頭部を持ち、体長20mを超える個体もいる巨大なハクジラだ。

Wikipedia Gabriel Barathieu  CC 表示-継承 2.0

肺呼吸を行う哺乳類でありながら、2000m以上もの深海に潜ることができるよう高度な進化を遂げている。

また、マッコウクジラは古くから捕鯨の対象となっていたため、世界的に広く知られたクジラの一種だ。「白鯨」などの小説を始め多くの作品に登場することでも知られている。

マッコウクジラの名前の由来

マッコウクジラの属名にあたる”physeter”は古代ギリシャ語からきており、「クジラの潮吹き」という意味がある。

Marion & Christoph Aistleitner  CC0

マッコウクジラの噴気孔(鼻孔)は、他のクジラよりも頭部正面にあるため、前方に向かった特徴的な潮吹きを行うことが由来だ。

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漢字で書くと抹香鯨

和名であるマッコウクジラを漢字で書くと「抹香鯨」となる。

古代よりアラビア商人により売買されていた、龍涎香(リュウゼンコウ)という珍品があった。これは香料とも媚薬ともされる品があったが、この龍涎香こそがマッコウクジラの腸内でごくまれに形成される結石だったのだ。

マッコウクジラから得られる龍涎香
 Peter Kaminski CC 表示 2.0

その龍涎香が抹香に似た匂いを持っていることからマッコウクジラと呼ばれるようになったと考えられている。

ちなみに…当初、龍涎香の入手方法としては、マッコウクジラから排出された結石が海を漂流しているものを偶然見つける他無かった。そのため、クジラの体内から得られることすら分かっていなかったようだ。

その後、捕鯨が始まってからマッコウクジラの体内から龍涎香が得られることがわかった。

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マッコウクジラの英語名は精液クジラ?

マッコウクジラは英名では「sperm whale」と呼ばれており、直訳すると「精液クジラ」となる。

PD

これは、かつてマッコウクジラの脳から採れる白濁色の鯨蝋(脳油)がクジラの精液であると誤解されていたことに由来する。

ちなみに鯨蝋とは、マッコウクジラの脳油から鯨油を分離した後の無臭の固体蝋であり、蝋燭や化粧品の原料として利用されてきた。

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マッコウクジラの生息地

マッコウクジラは北極から南極までの世界中の海に生息する最も繁栄したクジラの一つだ。

Wikipedia CC 表示-継承 3.0

メスと子供のマッコウクジラは複数が集まって群を作り暖流域で生活するが、オスは高緯度の寒流域にまで進出する。

日本周辺では小笠原諸島の近海にメスと子供の群れが定住しており、知床半島近海では海岸近くにオスが姿を表すこともある。

マッコウクジラの特徴

マッコウクジラは多様なクジラの中でも独特な進化を遂げており、興味深い特徴を持っている。ここでは、マッコウクジラの身体の特徴について見ていこう。

マッコウクジラの大きさ

マッコウクジラの体長は雄と雌で大きく異なる。メスの標準的な体長が約12-14m程度であるのに対して、オスの場合は約16-18mに成長する。さらに大きく成長したオスは体長20mを超えることもあるという。

Chris huh CC 表示-継承 3.0

これはハクジラの中で最大であり、同時に地球上の歯を持つ動物の中で最大のサイズでもある。ちなみに大きく成長したオスのペニスは1mを優に超える長さになるという。

肥大化した頭部

マッコウクジラの見た目を特徴づけるのが、極端なまでに肥大化した頭部。成長したオスの場合では、体長の約3分の1が頭部であり、クジラの中でも例外的な頭でっかちだ。

Geckochasing    CC 表示-継承 3.0

肥大化した頭部の中には、大量の脳油(鯨蝋)が含まれており、重量にして約2.5トンにのぼる。

生物最大の脳

マッコウクジラが大きいのは体長だけでは無い。マッコウクジラの脳は全生物の中で最大・最重量であると考えられている。

NOAA Photo Library  PD

成体のオスの脳は7-8kgに達し、バスケットボール程のサイズ。これは人間の脳の約7倍の大きさだ。

ただし、身体のサイズから比較してみるとマッコウクジラの脳は決して大きいというわけでも無く、人間の脳の方が身体に不釣り合いな程大きいようだ。

マッコウクジラの歯の謎

マッコウクジラは歯を持つ動物の中で世界最大の種であり、一本で重さ1kgもの巨大な歯を持っているが、彼らが何故歯を持っているのかはっきりとした理由は分かっていない。

Holger.EllgaardCC 表示-継承 3.0

マッコウクジラの主食であるイカや深海魚は丸呑みにできるため、捕食のために歯を持っている必要性が無いのだ。

仮説としては、繁殖期におけるオス同士の喧嘩に使われるという説や、ダイオウイカなどの大型の獲物を噛みちぎって子供に分け与えるという説が有力だと考えられている。

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マッコウクジラの生態

マッコウクジラは深海への潜水をはじめとした、他のクジラたちと一線を画す生態を持っている。今度はマッコウクジラたちの不思議な生態について見ていこう。

哺乳類最強の潜水能力

通常のクジラたちが200-300mしか潜水しないのに対し、マッコウクジラは10倍にあたる2000-3000mもの深海へと潜水することができ、生涯の3分の2を深海で過ごすと考えられている。

PD

光の届かない深海ではソナーのような役割を持つエコーロケーション(反響定位)を用いることで、障害物や獲物の位置を素早く特定し狩りを行なうことができる。

マッコウクジラは全身の筋肉に大量の酸素を蓄えることが可能となっており、1時間もの長時間を息継ぎ無しで活動することができるのだ。

ダイオウイカと戦う!?

深海に生息する10mを超えるダイオウイカもマッコウクジラにとっては大切な食料となる。

マッコウクジラの皮膚に残るダイオウイカによる歯型
PD

成長したマッコウクジラの口元には、たびたび円状の傷跡が残っているが、これは巨大なダイオウイカが捕食される際に抵抗し、触腕で絡みついた傷跡であることがわかっている。

深海ではダイオウイカとマッコウクジラが戦っているかのような表現が見受けられるが、実際にはマッコウクジラが一方的にダイオウイカを捕食し、ダイオウイカは食べられまいと抵抗しているだけのようだ。

マッコウクジラは子育て上手

マッコウクジラは生まれてからの数年間を母親たちの群れの中で過ごし、狩りや潜水の方法を学ぶ。

https://www.youtube.com/watch?v=DnJ80Sy3mVE
マッコウクジラの群れ

なかなか潜水しようとしない子供に対しては、母乳を飲ませながら一緒に深海へと潜る訓練を行うなどの訓練を行う。

マッコウクジラの群れは仲間意識が強く、天敵であるシャチが現れると子供や弱った仲間を囲むように守ることもあるようだ。

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マッコウクジラの寿命と成長

マッコウクジラの赤ちゃんは12-18ヶ月もの長期間を母親の胎内で過ごした後、体長4m体重1トンという巨体で誕生する。

オスは10-20歳の繁殖期間を終えても成長が止まらず、約50歳まで成長を続けて最大となる。マッコウクジラの寿命は70歳以上と言われており、海洋性哺乳類の中でも長寿の部類に入る。

マッコウクジラの潜水

数あるクジラの中で、マッコウクジラだけが深海へと潜ることができる秘密は巨大な頭部にある。マッコウクジラは体内に大量の脂肪を持っており、これにより巨体を水に浮かせることができる。

一説によると、頭部に含まれる鯨蝋(油)は冷たい海水によって冷やされることで密度の高いドロドロの固体となり、重りの役割を果たすことで深海への急潜水を可能としているという。

浮上の際には鯨蝋周辺の毛細血管へと血液を送り込むことで、固体となったワックスを溶かして急浮上を行うのだ。

マッコウクジラは、このような特殊な能力を持つことで、わずか数十分の間で3000mもの深海への潜水浮上が可能となっている。

人間との関係

マッコウクジラを語る上で切り離せないのが、人間による捕鯨の歴史だ。現在では世界的に禁止されつつある捕鯨であるが、かつて人類はクジラがもたらす素材によって大きく発展してきた。

ここでは、意外と身近なマッコウクジラと人間の関係について見ていこう。

捕鯨の対象となったマッコウクジラ

マッコウクジラから採取される鯨蝋は、蝋燭や石鹸の原料のほか、灯油や機械油として利用されてきた。

PD

精密機械の潤滑油としては鯨蝋よりも優れた代替品が存在しなかったため、1970年代まで高い需要があった。

北米西海岸やイギリス、フィヨルドランド沿岸などをはじめとした地域では捕鯨が積極的に行われてきたため、現在でも個体数が少ないとされている。

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ペリーが来たのはマッコウクジラのため?

1853年、鎖国中の日本に代将ペリー率いるアメリカ合衆国の艦隊が来航した。日本史に残る大事件「黒船来航」だ。

この事件をきっかけに日本は近代的な発展へと突入するのだが、実はペリー来日の理由のひとつにマッコウクジラが絡んでいたのだ。

アメリカでは18‐19世紀にかけてマッコウクジラの捕獲が盛んに行われてきた。捕鯨範囲は自国の沿岸に留まらず、マッコウクジラが多く生息している日本近海にまで及んでいたという。

当時の捕鯨船は1年以上も航海を行っており、大量の食糧や薪が必要であったために日本が中継基地として最適だったのだ。

マッコウクジラは宇宙進出に不可欠だった!

マッコウクジラの鯨油は極寒の地域でも凍ってしまわない優良な潤滑油として高い利用価値があった。有名なところではロールスロイスなどのミッションオイルなどの原料とされていたこともある。

Raphael D. Mazor  CC 表示 2.0

20世紀の宇宙開発においても「凍らない油」は重宝されており、氷点下の環境で使用されることになる人工衛星や弾道ミサイルのオイルとして活用されたという。

一説によると、月面にはじめて人類を送り届けたアポロ11号にもマッコウクジラの脳油が使用されていたという。

PD

2010年には、TV番組で「ハッブル宇宙望遠鏡には現在も鯨油が使用されている」と報道され、自然保護や動物愛護の観点から捕鯨を禁止しているアメリカでは、ちょっとした騒動となったようだ。NASAはこの報道を否定するコメントを発表しているが懐疑的な意見もあるようだ。

アポロ計画や現在の人工衛星にマッコウクジラの鯨油が活用されたかどうかは定かではないが、人類の宇宙進出はマッコウクジラ無しにはあり得なかったことは間違いないだろう。

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