今からおよそ5億4000万年前――。古生代カンブリア紀にカンブリア爆発と呼ばれる生物たちの急激な進化が起こった。
それまで、単純で原始的な生物しかいなかった太古の海の中に、様々な形、大きさ、特殊能力を持つ生物たちが大量に表れたのだ。

そのユニークな見た目から、カンブリア紀の古生物は『カンブリアモンスター』の愛称で親しまれ、何度も古生物ファンをうならせてくれた。
今回は、カンブリア紀に突如として現れた多種多様なカンブリアモンスターたちの中でも、特に奇抜な種類を一部ピックアップしてみよう。いまだ謎の多いカンブリア紀の古生物にズームインだ!
カンブリア紀古生物の種類一覧
アノマロカリス
カンブリアモンスターの代表格ともいえるアノマロカリス。数cm程度の生物しか存在しなかったカンブリア紀の海において、1mを超える体長を持つ巨大生物だった。

獲物を捕らえるエビのような2本の触手を使い、脱皮したての三葉虫などを捕食していたと考えられている。
化石が発見された当初は、触手、胴体、口部分がそれぞれ別の生物であると考えられていた。触手はエビ、口はクラゲの一種、胴体はナマコの一種であるとされ、古い古生物図鑑ではそれぞれ別の生物の化石として紹介されていることもある。
ペユトイア(ラガニア)
アノマロカリスの近縁種で、アノマロカリスと並んでカンブリアモンスターの代表格として知られているペユトイア。楕円形の体つきと全長の1/3を占める巨大な頭部が特徴的だ。

これまでに発見された化石は15㎝ほどだったが、実際には50㎝程度まで成長したと考えられている。
ハルキゲニア
細長い胴体と7~8対の脚、背中側に生えたトゲが特徴的なハルキゲニア。首にあたる部分には口元に届くほどの長さの触手が生えている。全長は0.5~3㎝ほどとかなり小さい。

化石の発見当初は、あまりに奇妙な姿から復元すらできずに様々な議論を巻き起こした。当初、ハルキゲニアの化石は胴体とトゲ部分しか見つかっておらず、トゲが脚だと思われていたが、のちに脚部分の化石が見つかったことで上下逆に復元されていたことが判明した。
2015年には、今までお尻だと思われていた部分から2つの眼と小さな歯が発見されたことによって、前後も逆だったことが判明している。
エルドニア
エルドニアは謎の多い奇妙なカンブリアモンスター。直径約20㎝の平べったい円形な身体を持っており、身体は軟体でクラゲのような見た目をしている。

生態や分類については未だ謎の部分が多く、浮遊性のナマコという説やクラゲ類の一種とする説などがあったが、近年では海底の泥に身体を半分めり込ませる形で生活していたと考えられている。
パウキポディアやミクロディクティオンなどの葉足動物を体内に住まわせることで共存生活を送っていた可能性も考えられている。
ハイコウイクチス
ハイコウイクチスは現在知られている中で、原始的な最古の魚類の一つとして知られるカンブリアモンスターだ。

世界最古の魚類としてはミロクンミンギアが知られているが、ミロクンミンギアがほとんど目が見えなかったのに対し、ハイコウイクチスはぼんやりと目が見える程度の視力を持っていた。視力を持った最初の魚類というわけだ。
ハイコウイクチスは魚とは言っても背骨を持った脊椎動物だったのではなく、筋肉の束『脊索(せきさく)』を持った脊索動物だった。脊索を得たことにより、当時の海では最速級の俊敏な動きを獲得したと考えられている。
パウキポディア
パウキポディアは、ハルキゲニアと同じ葉足動物というグループに属する古生物。体長は約8㎝なのでハルキゲニアよりも3~16倍程度大きいことになる。

細長い胴体と胴体に生えた9対の触手、歯の付いた口と胴体に沿った消化管というシンプルな体のつくりをしている。
化石はエルドニアと一緒に発見されることが多いため、エルドニア内に宿って共生生活を送っていた可能性もあるという。
ミクロディクティオン
ミクロディクティオンもパウキポディアと同じ葉足動物の一種。

全長は25㎜ほどとパウキポディアと比べてもかなり小さいが、8~10対の脚には肩パットのような甲皮が備わっていた。
ウィワクシア
ウィワクシアは体長2.5~5㎝ほどの軟体生物。海底を這いずり回りながら生活する生物だったと考えられている。

楕円形の身体を持ち背中側にはウロコのようなものでびっしりと覆われている。背面には10本前後のトゲを持っているが、化石には不自然にトゲが折れた痕跡なども見られることから捕食者から身を守るのに役立っていたと考えられている。
オットイア
カンブリア紀の海底における捕食者として有名なオットイア。現生の海洋生物であるエラヒキムシ(鰓曳動物)の祖先とされている。

体長は約8cmほどで、およそ25本のトゲの付いた口吻を地表に出して獲物を待ち構えていた。地中では体をU字に曲げて、口吻とお尻を地表に突き出すことで捕食と排泄を可能にしていた。
化石からはヒオリテス類と呼ばれる巻貝のような生物のほか、オットイアの吻が発見されていることから、オットイアは獰猛な肉食生物であり、共食いも行っていたことが分かっている。
オドントグリフス
『歯の生えた謎』という意味の名前を持つオドントグリフス。べちゃっと潰れた草履のような平べったい身体が特徴的だ。体長は約12㎝。

腹面には唾液腺や歯舌が確認でき、藻類の近くで化石が発見されやすい事などから、岩にこびりついた藻の上を這いずり回りながら、歯舌でこそぎ落として食べていたと考えられている。
パンブデルリオン
エラのある葉足動物と呼ばれるパンブデルリオン。アロマロカリス類や節足動物に近縁であり、最大全長も50㎝に達する当時の海では超巨大生物の一種だった。

クワガタのような左右に伸びた長い付属肢が確認できるが、アノマロカリス類のように関節になっていた訳でもなく、どれほどの力で食べ物を挟むことができたのか分かっていない。
食性は謎に包まれており、鋭い歯を持つことから捕食者であったとする説のほか、筋肉が貧弱であるため腐肉食者(スカベンジャー)だったとする説など、専門家の間でも意見が分かれている。
ケリグマケラ
ケリグマケラは、パンブデルリオンによく似た葉足動物の一種。パンブデルリオンと並んでシリウスパセット動物群の代表種として知られている。

大きさは体長2.5~25㎝に達し、パンブデルリオンと同じくクワガタのような左右に伸びた付属肢が確認できる。一方で、葉足が長いことや長い尾が確認できる点などがパンブデルリオンとは異なる。
また、ケリグマケラは脳神経節が1つであること(通常は前大脳、中大脳、後大脳の3つ)が解明されており、同じく脳神経質を1つしか持っていない現生の生物『クマムシ』との関連性を主張する研究者も存在するようだ。
オパビニア
『奇妙奇天烈動物』という異名で知られるオパビニア。細長い胴体と5つの眼、頭部から生えた長い触手には左右に開くトングのようなハサミを持った奇怪なカンブリアモンスターだ。

学会で復元図が発表された際には、あまりにキテレツな姿だったため会場が笑いの渦に包まれ、学会の進行が一時中断する騒ぎになったという逸話もあるほど。
ヒレの間に脚のようなものが確認できることから、「海底を歩くための脚が生えていた説」と「消化管の枝が生えていた説」という2つの説が議論を呼んでいる。まさに謎の古生物だ。
ピカイア
ピカイアは今から5億年以上前に生息していたナメクジウオのような見た目の生物。

1911年に発見された際にはゴカイなどと同じ『多毛類』とされていたが、のちに分類が見直され『原的脊索動物』とされるようになり、近年では『原始的頭索動物』といった分類とする説が有力になっている。
1990年代くらいまでは子供向けの図鑑などでも『人類の直接的な祖先』といった紹介がされていたことで有名になったが、のちにハイコウイクチスなどの脊椎動物が発見されたため、人類の直接的な祖先ではないことが判明した。
ハーペトガスター
『這いまわる胃』を意味する名前のハーペトガスター。その名の通り、身体のほとんどが消化管であったと考えられている。

本体上部には樹状の触手が確認でき、本体下部の先端は肛門になっていたと考えられている。あまりにも奇妙な姿はカンブリアモンスターの異名にピッタリだが、現生のヒトデの仲間にも似たような姿の生物がいることにも注目したい。
リングレラ
リングレラはカンブリア紀中期に生息していた海底棲生物。貝殻は1㎝程度の大きさしかないが、そこから伸びる茎は6㎝に達する。見た目は貝のようにも見えるが、実際には全く異なる生物。

リングレラのような腕足動物はカンブリア紀に広く生息していたと考えられているが、現在では数種類が確認できるだけになっている。日本周辺に生息するシャミセンガイも腕足動物の一種だ。
サンクタカリス
サンクタカリスはカンブリア紀中期に生息した鋏角類の一種。全長は10㎝ほど。

鋏角類は現生のカブトガニやサソリの仲間であり、小さいながらも脚先には爪も持っている。何となくカブトガニに似た見た目をしている。
ハベリア
ハベリアは基盤的な鋏角類とされるカンブリア紀の節足動物。サンクタカリスの近縁種とされるが、尾を除いた大きさは8.5㎜~34㎜と小さめだ。

ウミグモやウミサソリなど近縁種の多くが頭部から生えた脚(付属肢)のみを持つのに対し、ハベリアは胸部からも脚が生えているため、頭部の脚は食事専用…胸部の脚は歩行専用…といった具合に使い分けていたと考えられている。
シドネイア
シドネイアは全長16㎝ほどのカンブリア紀の節足動物。身体が幅広く平べったいのが特徴的で、背面から見ると触覚以外の付属肢がほとんど見えない。

化石の胃の中からは、巻貝のようなヒオリテス類や三葉虫などが破片となって見つかっており、硬いものでもバリバリと噛みちぎって食べていたことが分かっている。
ディアニア
『歩くサボテン』の愛称で親しまれているディアニア。体長は約6㎝。かなり丈夫そうな脚と、脚に無数に生えたトゲが特徴的だ。

海底を歩くスカベンジャーで、脚のトゲは防御用に生えていたとされている。関節のようなものが確認できることから節足動物の仲間と考えられたこともあったが現在では否定されていようだ。
レアンコイリア
レアンコイリアは全長約7㎝程度の節足動物。平たい体と糸状に伸びる鞭毛が特徴だ。

海底を遊泳しつつ、自身より小さな獲物や動物の死骸などを捕食する生活を送っていたと考えられている。
マーレラ
マーレラはカンブリア紀中期に生息した節足動物。三葉虫のようにも見えるため、かつては三葉虫の仲間だと考えられていたが実際には異なる生物だ。現在でも分類について詳しい事は分かっていない。また、見た目に反し、大きさは2㎝に満たない。

化石が比較的見つかりやすい生物で、これまでに1万5000以上の標本が集まっている。標本が豊富にあったことからバージェス動物群としては最初に立体的な復元ができた生物でもある。
ネクトカリス
1970年代の発見当初、ネクトカリスはエビのような生物だと思われていた。1対の眼と触手から「節足動物と脊索動物のキメラ生物」として紹介されていた。

しかし、2010年の再研究の結果、イカのような頭足類に近い生き物であったという研究結果が報告された。
もし、ネクトカリスがイカのような生物だったとすると、イカやタコなどの頭足類の進化の学説すらも塗り替えてしまうことになる。頭足類はアンモナイトなどの殻を持った生物が、殻を退化させたことで生まれたと考えられているためだ。
このため、ネクトカリスの研究には古生物学者のみならず、多くの研究者から注目されている。