お腹の袋で赤ちゃんを育てることで知られる有袋類。有名なところではカンガルーやコアラなどが知られているけれど、ここ数年はもっぱらオポッサムが人気らしい。

最近ではペットとしての人気も高まりつつあるらしく、驚くと死んだふりをする姿や、子育てで大量の赤ちゃんを背中におぶって育児をする姿が「可愛い!」と話題になっている。
今回は、オポッサムが「死んだふりをする動画・画像」や「赤ちゃんをおぶった子育て画像」などとともに、あまり知られていない生態について見ていこう。
オポッサム
オポッサムとは
オポッサムは北米〜南米大陸にかけて生息するアメリカ大陸唯一の有袋類(ゆうたいるい)。頭部の白い体毛とピンクの鼻が特徴的な哺乳類だ。

お腹に袋で子育てをする特徴と大きめのネズミのような見た目からフクロネズミ、特徴的な子育てをする姿からコモリネズミといった別名でも呼ばれている。
有袋類とは「袋を有する」という名前の通り、お腹に袋を持った動物。代表的な有袋類としては、オーストラリア大陸に生息するカンガルーやコアラなどが知られているが、アメリカ大陸で暮らすオポッサムも彼らの遠い親戚というわけだ。

基本的に夜行性で、昼間は木の洞や土に掘った穴の中で身を隠して休み、夜になると活動を開始する。食性は雑食性であり、昆虫や爬虫類、鳥類、卵などのほか、果実や小型の哺乳類、動物の死骸まで食べてしまう。
オスは樹などに自分の唾液をつける習性があり、他のオポッサムに対して自分の存在をアピールすることもわかっている。
オポッサムの生息地
オポッサムの生息地は、北アメリカ大陸から南アメリカ大陸。種類については諸説あるようだが、各地に少なくとも70種以上が分布していると考えられている。

草原や森林地帯、畑などあらゆる環境に適応することができ、時には市街地や家屋に住みつくこともあるようだ。
木登りや穴掘りが上手く、樹上で過ごす種類が多いが、ジネズミオポッサムのように地表を主な生活圏とする種類や、ミズオポッサムのように淡水の水辺で生活する種類など、あらゆる環境に適応している。
オポッサムの大きさ
ネズミのような見た目、ペットとしても人気があることから、オポッサムは小さい動物だというイメージが強いが、実際にはそこそこ大きい。

大きさは種類にもよるが、最大種であるキタオポッサムでは尾長を含めた全長で1m前後にまで成長する。
一方、最も小さな種として知られるマウスオポッサムは体長10〜20cm程度と手のひらサイズで、尾長を合わせても30〜40cm程度だ。
オポッサムの死んだふり
有袋類という原始的な特徴を持つ…つまり、それほど進化していないオポッサムがアメリカ大陸に広く生息域を広げれたのには、オポッサムなりの生存戦略があった。その一つが『死んだふり』である。

天敵に出会った小動物の取る行動としては、「逃げ出す、隠れる、身体を大きく見せて威嚇する」などが多いが、北米に生息するキタオポッサムの場合、驚くと「死んだふり=擬死状態」になることが知られている。
キタオポッサムは天敵であるコヨーテなどの肉食獣に対峙すると、全身を硬直させバタッと倒れるか身体を丸くして全く動かなくなる。目は虚ろに、口は半開きになり、舌をダラリと垂らして腐肉臭とも喩えられる臭い唾液を分泌する。『死んだふり』をさせれば右に出るものはいない徹底ぶりだ。
死んだふりをするメリットについては諸説あるが、一つは「捕食者が動かなくなった獲物を見て油断した隙に逃げ出す」というもの。もう一つは「動物の死骸を食べない捕食者に対して自分は死骸であると錯覚させる効果がある」というものだ。
また、擬死状態の時は筋肉が硬く硬直していることから身体へのダメージを減らす効果も期待できるそうだ。死んだふりをしているオポッサムは尻尾を齧られても動かないというから驚き。
ちなみに、日本では死んだふり=擬死を行う動物としてタヌキが有名。「狸寝入り」ということわざは、狸が擬死状態のまま天敵をやり過ごす姿から生まれたと伝えられている。
※すべてのオポッサムが擬死行動を行う訳ではない。
オポッサムの繁殖能力
もう一つのオポッサムの生存戦略が『圧倒的な繁殖能力』だ。オポッサムの妊娠期間は12-14日とかなり短く、子どもを早いペースで産むことができる。一度に20匹を超える子どもを出産することもあり、一回で56匹の子を産んだという記録もあるほど。
しかし、乳頭の数は限られているため、母親は乳頭の数程度の子供しか育てることができない。多く子供が産まれた場合でも、乳頭にたどり着けなかった弱い子どもは死ぬことを意味する。残酷ではあるが、この仕組みこそが生命力の強い個体を生き残らせることに役立っている。
ちなみに、乳頭は種類によって異なる。少いもので4個、多いものでは27個と同じオポッサムでもかなり差があるのも特徴的だ。
また、オポッサムはオスメスの産み分けができるという説もある。栄養状態が良い暮らしをしている場合には、丈夫な子どもが生まれる可能性が高いため、オスを産むことが多いと言われている。
オポッサムの子育て
オポッサムが赤ちゃんを背中に乗せて子育てに奮闘する姿は、とても可愛いと人気が高い。オポッサムは妊娠期間が極端に短い。そのため、赤ちゃんは超未熟児の状態で生まれてくる。その大きさはミツバチほどのサイズ、体重は0.15g程度というから驚きだ。

生まれたばかりの子どもたちは、すぐに母親の上を這って、お腹にある育児嚢に潜り込む。しばらく育児嚢の中で過ごし、ある程度大きくなると袋から出入りするようになる。
離乳までの期間は100日ほど。乳離れがとても早いこともあり、母親は年に2〜3回出産を行うこともあるのだとか。
小さなうちは母親の背中に乗って狩りについて行く姿が確認できる。時には10匹を超える赤ちゃんを背中に乗せて移動することも……母親オポッサムは大変だ。
オポッサムの種類
オポッサムといっても、その種類は70種とも100種以上とも言われている。最後に代表的なオポッサムの種類を紹介しよう。
キタオポッサム

メキシコからカナダ南西部に生息する最もメジャーなオポッサムのひとつがキタオポッサムだ。オポッサム科の中では最大種であり、鼻の先から尾の先端までの長さは1mを超えることもある。
毛皮や食肉目的で狩りの対象になることもあるが、市街地や家屋周辺など人間の生活圏に生息域を広げるなど強い生命力を持っている。
ミナミオポッサム
こちらは南アメリカに生息するミナミオポッサム。基本的に森に生息するが、草原や市街地など、あらゆる環境に適応する能力を持っている。民家のゴミ箱を漁ったり、暗い場所に巣穴を掘る習性から、生息地では害獣として嫌われている側面も。
ヨツメオポッサム

眼の上の白い斑点から「四ツ目=ヨツメオポッサム」と呼ばれる。樹上性ですばしっこく警戒心が強い。泳ぎも得意らしい。
また、ヨツメオポッサムは毒蛇にの毒に対する抵抗力も持っているらしく、他の動物を殺してしまうような毒蛇に噛まれても大丈夫なのだとか。
ウーリーオポッサム

茶色の毛並みが特徴的なウーリーオポッサム。3種類のグループからなり、他のオポッサムよりもネズミのような、アイアイのような、不思議な見た目をしている。
マウスオポッサム

マウスオポッサムは、体長10~15㎝程度の小型のオポッサム。育児嚢がないのが特徴。尾は体長の2倍程度の長さがあり、木の枝などに巻き付けることができる。また、栄養が豊富な時には尾に脂肪分を貯めこんだりする。
ピグミーオポッサム(ジネズミオポッサム)
日本ではペットとして人気の高いピグミーオポッサム。こちらも育児嚢が無いため、生まれた子供は母親が常に背負って育てる。
ちなみに、ネズミやハムスターのような見た目だからといって、飼育はそれほど簡単ではない。人気があるからといって安易に飼わないように注意しておこう。
ミズオポッサム

現生の有袋類の中で唯一、水中での生活に適応したミズオポッサム。他のオポッサムに比べて流線型のボディ。毛並みが密で、後足に水かきがあるのが特徴。
育児嚢で赤ちゃんを育てる際にも水中を泳ぐが、袋の口部分の筋肉が発達しているため、しっかりと封をすることができ、中の赤ちゃんが濡れることはない。
チロエオポッサム

南米に生息し、オポッサムという名前が付いているものの、他のオポッサムたちとは異なる『ミクロビオテリウム科』というグループに属するチロエオポッサム。
元々はキタオポッサムなどが属するのオポッサム属の仲間だと思われていたが、近年の研究では、オポッサムとは全く異なる系統であることが分かっている。なんでも、オーストラリア大陸の有袋類と遺伝的に近い種類らしい。
体長10㎝程度で可愛いけれど、生息地の減少から絶滅の危機に瀕している。