砂の中にじっと潜み、罠に掛かったアリなどの昆虫を引きずり込んでは体液を吸い込んでしまうアリジゴク。まるで冒険モノのゲームにでも出てきそうなモンスターのような生態だ。
外で遊ぶことの多かった昔はよく見かけたけれど、最近は見たことすらないという人も多いようだ。そもそもアリジゴクがウスバカゲロウの幼虫であることすら知らない人も多いらしい。
そんなこんなで今やすっかり見かける機会の少なくなったアリジゴク。今回は「アリジゴク」の生息場所や巣の作り、食事方法など奇妙な生態に迫ってみよう!
蟻地獄(アリジゴク)
アリジゴクはウスバカゲロウ目に属する生物。アリジゴクという種類の昆虫がいると思っている人も多いが、実際はウスバカゲロウという昆虫の幼虫段階を指す名称だ。英語では”ant‐lion”と呼ばれ、直訳するとアリライオン。砂の中の猛獣というわけだ。
アリジゴクは幼虫なので成長していくとサナギになり、羽化して成虫の「ウスバカゲロウ」へと姿を変える。このように成長するにつれて姿を変えることを「完全変態」というのだ。
ちなみにウスバカゲロウはトンボのような見た目の生き物で、「極楽トンボ」や「神様トンボ」といった別名を持っている。
アリジゴクといえば、砂に掘った穴の中に潜み獲物が来るのをじっと待つイメージが強いが、種類によっては罠を作らず普通に獲物を捕らえるものもいるらしい。海岸砂丘に生息する種や岩肌に張り付いて罠を作らない種も確認されている。
いろんな種についてピックアップしたいところだけれど、今回は砂に罠を作るタイプの一般的なアリジゴクについて見ていこう。
アリジゴクの身体と特徴
アリジゴクの体長は約1cmほど。小さな身体には自身の頭部よりも巨大な鎌状の大顎が付いている。この大顎によって自分と同サイズの獲物が罠に掛かったとしても捕らえることができる。
シャープな頭部とは対照的に胴部はずんぐりむっくりとした体型をしている。体表は鎧のようにも見えるが触ってみると柔らかく弱々しい。移動能力は乏しくピョコピョコと飛び回るように移動する。基本的に罠を作り終えると移動することがないため歩くのが遅くても問題無いのだろう。
また、一部を除いて多くのアリジゴクが後ろ向きにしか進めないことも分かっている。罠を作ることに関しては後ろ向きに進んだ方が都合がいいようだ。
アリジゴクのいる場所
アリジゴクの生息地域は沖縄から北海道まで日本全土。海外にも多く分布している。アリジゴクと呼ばれる幼虫の期間は1〜3年と長いため一年を通して見つけることができるだろう。
アリジゴクは、サラサラと乾燥した目の細かい砂地を好む。水が流れ込んでくると溺れてしまうので軒下などの雨風をしのげる場所というのが絶対条件だ。
アリジゴクの生息場所は意外と多く、普通の住宅地であっても、条件が揃えば見つけることができる。環境が整っていれば、みんなそこに罠を作るので一匹見つけると近くにも何匹かいる場合が多いようだ。
アリジゴクの巣(罠)の仕組み
アリジゴクはサラサラとした崩れやすい砂地を見つけるとすり鉢状の穴を掘る。これがいわゆるアリジゴクの巣(罠)だ。アリジゴク自体は掘った穴の最深部に潜み、落ちてきたアリやダンゴムシなどの昆虫を捕らえる。
アリジゴクの作る穴は完全な円形ではなく、身体の前後に向かって楕円形を描く。穴の壁面は約31〜39度とギリギリ崩れ落ちない角度を保っている。獲物たちは一度穴に落ちたが最後、崩れ落ちる砂の壁に足を取られアリジゴクが待ち構える最深部へと転がり落ちてしまうのだ。
さらに、獲物が穴に入ったことを察知したアリジゴクは、獲物に向かって砂を投げかける。直接捕らえることができる穴の最深部まで獲物を引きずり落とす必殺技なのだ。
アリジゴクの捕食方法と猛毒
獲物を捕らえることに成功したアリジゴクは、大顎を作って獲物を固定し、消化液を注入する。獲物の体組織を液体状に分解し吸汁するのだ。
また、この消化液は昆虫に対して高い効果を毒性示すが昆虫病原菌が含まれている。アリジゴクの体内にはエンテロバクター・アエロゲネスといった病原菌が共生している。この病原菌によってもたらされるアリジゴクの毒は、フグの毒として有名なテトロドトキシンの130倍も強力だとも言われており、この強力な毒によって獲物の動きを止めることができるのだ。
獲物の体液を吸い取ってしまうとカラになった残骸を巣の外へと放り投げ、罠の最深部で次の獲物を待ち続ける。
アリジゴクの獲物
アリジゴクの食べ物はアリだけではない。ダンゴムシやゾウリムシなど小さな昆虫類が幅広く捕食対象だ。
しかし、獲物を追いかけて捕らえることができないアリジゴクは、ただひたすら獲物が罠にかかるのを待つことしかできない。そのため、かなり飢餓に強い身体を持っている。
アリジゴクは1ヶ月に1匹程度しか獲物が得られなかったとしても十分に成長できることが分かっている。さらに、数ヶ月もの間、獲物にありつけず身体が小さく縮んでしまったとしても耐えることができるのだ。
アリジゴクはウンチをしない!
アリジゴクの奇妙な生態の中でも突出しているのが「アリジゴクはウンチをしない」という特殊なスキルだ。
もちろん、餌を食べた際の排泄物は発生するのだが、幼虫(アリジゴク)の間に発生した排泄物は成虫(ウスバカゲロウ)になるまで身体に溜め込んでおくのだ。
サナギの期間を経て成虫であるウスバカゲロウになる際に、幼虫の間に溜め込んだ数年分のウンチを一気に排出するらしい。
ちなみに、昔から「アリジゴクは尿もしない」というのが昔からの通説だったが、アリジゴクを観察していた小学4年生によって尿を排出する姿が確認され話題を呼んだことがある。実はアリジゴクが尿をするということは1998年には解明されていたのだが、小学生でありながら通説を覆す発見をしたことでニュースなどでも取り上げられたようだ。
アリジゴクは、あまり研究が行われていないため、みんなも観察していると新発見があるかもしれないぞ!