誰でも一度は聞いたことがあるであろうエアーズロック。正式名称ではウルルというらしい。
オーストラリアにある世界遺産であり、人気の観光名所ということは有名なのですが、エアーズロック(ウルル)とはそもそも何なのでしょうか?
エアーズロック(ウルル)
今回はエアーズロック(ウルル)の特徴や歴史について見ていきたいと思います。
エアーズロック(ウルル)とは?
オーストラリア北部の準州であるノーザンテリトリーの南部。
鉄鉱石の採鉱といった鉱業が盛んであり、砂漠地帯を多く有するこの地にエアーズロックが存在している。
地平線が見えるほど広大な大地に、どっしりと構える巨大な一枚岩。その存在感は見る者を圧倒するのだ。
現在では観光地として有名になってしまったエアーズロックだが、エアーズロックを含む周辺のスポットはオーストラリアの先住民アボリジニ達にとって神聖な場所。
多様な自然環境としての価値以外にも、伝統文化・宗教的な価値も高いとされている重要な土地なのだ。
アボリジニについて…アボリジニとはオーストラリアの先住民たちを表す言葉。日本ではアボリジニと呼ばれることが多いのですが、現地ではアボリジニという言葉には差別的な響きが強いとされているそう。
そこで、近年では『アボリジナル、アボリジナル・ピープル、アボリジナル・オーストラリアン』などの呼び名が使われるようになっているようだ。
この記事では、日本人への分かりやすさからアボリジニと記述していくけども今後はアボリジナルって呼びたいよね。
ちなみに、エアーズロックがある位置はオーストラリア大陸を上空から見たとき、ほぼ中央にあたる。
別名『地球のへそ』や『大地のへそ』ともいわれるエアーズロックだが、実際には『オーストラリアのへそ』といった方が正しい気もする。
世界遺産『ウルル=カタ・ジュダ国立公園』とは?
エアーズロックは【ウルル=カタ・ジュダ国立公園】の中にあり、この国立公園全体が世界遺産として登録されている。
国立公園内には160種を超える鳥類のほか、トゲトカゲやトゲホップマウスなどの希少生物が生息しているという。トゲばっかだな。
この豊富な自然が認められ、1987年国立公園に登録されると同時に世界遺産(自然遺産)に認定された。
また、この地は先住民族アボリジニにとっての重要な聖地とされており、古代のアボリジニたちの生活様式や儀式の痕跡が数多く残っていることも分かっている。
以上のような文化的側面が認められたことで、1994年には文化遺産としての世界遺産へと拡大登録された。
ちなみに、公園内に入るには入園チケットとして$25(豪ドル)の入場料が必要だ。
エアーズロックの正式名称はウルル
日本では『エアーズロック』の名称が浸透しているが、本来の名称では『ウルル』といわれていることを忘れてはならない。
『ウルル』は、古くからエアーズロックの周辺で生活してきたアボリジナル・ピープルに伝わる『ピチャンチャチャラ語』。
ウルルという言葉の意味については諸説あるようだが、ウルルはエアーズロックの岩山を表す単なる固有名詞であって「特に意味は無い」という説が有力らしい。
しかし、日本の一部の文献では『偉大な石』や『日陰の場所』という意味があると説明されていたり、海外のウェブサイトでは『防御』や『長い眠り』を意味する言葉で説明されている。
「実はアボリジニにとって重要な意味があるため外部には伝わっていない。」という少しオカルトめいた説もあるようで、ウルルという言葉が持つ本来の意味はよくわかっていないというのが実情のようだ。
エアーズロックの名前の由来
一方『エアーズロック』という名称は、19世紀に入りヨーロッパ人たちがオーストラリア大陸に進出してきた後に付けられた名前だ。
1873年、イギリスの探検家『ウィリアム・ゴス』は、オーストラリア大陸を探索中に巨大な一枚岩を発見した。
エアーズロックの名前の由来となったヘンリーエアーズ
古来よりアボリジニたちは、この一枚岩のことを『ウルル』と呼んでいたのだが、ヨーロッパ人たちは『エアーズロック』という新しい名称を付けたのだ。
エアーズロックの『エアーズ』の部分は、当時の南オーストラリア植民地の首相であった『ヘンリー・エアーズ』の名前にちなんで付けらた。
「エアーズロックというくらいだから何か空気と関係があるのだろう。」と思っていたのだが、エアーズロックの英語のスペルは『Ayers Rock』であり、空気を意味する『Air』とは何の関係もないようだ。
ちなみに、オーストラリアや東南アジアなどには、当時のヨーロッパ人達によって名付けられた物が多く残っている。エアーズロックのように人の名前にちなんだ物も多い。
例えば、とても臭い花を咲かせることで有名なラフレシアも、ヨーロッパ人である『トーマス・ラッフルズ』の名前が元になっている。
エアーズロックとアボリジニへの虐殺の歴史
なぜ、本来のウルルという言葉があったのに、わざわざエアーズロックという名前を付けたのか?
様々な理由があるとは思われるが、その理由の一つはアボリジニたちの悲しい歴史につながっている。
オーストラリアへの侵略
数万年もの太古よりオーストラリア大陸で生活してきた先住民『アボリジニ』たちは、侵略してきたヨーロッパ人たちによって大量虐殺された過去を持っている。
18世紀、オーストラリアに到達したヨーロッパ人たちは、オーストラリアの先住民であるアボリジニの人々と出会った。
初代総督アーサー・フィリップ
1788年1月26日、初代総督アーサー・フィリップ率いる海兵隊らが流刑者と共にオーストラリアに上陸。
彼らは、狩猟採集民として自然と共存しながら移動を続けるアボリジナルたちの存在を知ると「アボリジニたちはオーストラリアの定住者」ではないとした。
すなわち「オーストラリアには誰も住んでいないから勝手に使っていいよね!」と主張したのだ。
入植者たちは、自分たちの土地占拠を合法化しつつ、アボリジニたちが自分たちの土地を不法に占拠しているとして迫害していくこととなる。
アボリジニの大量虐殺
さらに、アボリジナルたちは追い出されるだけに留まらず、入植者たちのスポーツハンティングの対象とされたことも分かっている。
現存する当時の日記には「今日はアボリジニ狩りにいって17匹をやった」との記述があるほど。遊び感覚で日常的に虐殺が行われていたのだ。
現在エアーズロックと呼ばれている岩山は、アボリジニたちの言葉でウルルと呼ばれていたわけだが、友好的な関係を築こうとしなかったヨーロッパの人々が彼らの言葉を使うことは無かった。
ちなみに、日本では現在でもエアーズロックの名前が浸透しているが、オーストラリアにおいては、1980年代ごろから『ウルル』という正式名称が使われ始めていたのだとか。
この記事では、日本での知名度を重視して『エアーズロック』と記述しているが、本来であれば『ウルル』という言葉を使うべきなのかもしれない。
エアーズロックの構造
それでは、エアーズロックの話に戻ろう。
だだっ広い大地からボコッと膨らんだような岩肌が特徴的なエアーズロック。
あの山のようなもの、あれって一体なんなのだろうか?
実は、あの岩の山のようなものは単なる山ではなく、ひとつの巨大な一枚岩なのだ。
岩山と呼ばれるような巨大な山は世界各地にあるが、岩山とは単に岩が多い山のこと。
エアーズロックは巨大な一枚岩なので、山に岩があるのではなく、山そのものが岩。つまり、とてつもなくデカイ石ころというわけだ。
さらに驚きなのが、私たちが目にしているエアーズロックはほんの一部であるということ。地質学者による推定では、地表に顔を出しているのは巨大な岩の約1割程であるそうだ。
実際には確認できないが、とてつもなく巨大な石ころが地面に埋まっているらしいのだ。
エアーズロックの高さと大きさ
エアーズロックが巨大な一枚岩であることはわかったが、なんだかエアーズロックって大きさがイマイチ掴めまない。
周りに比べるものが何もないため、どのくらいの大きさを持っているのか実感できないのだろう。多分。
調べてみたところ、エアーズロックの高さは地表から約348m。実は東京タワーよりも高い。
せっかくなのでエアーズロックの横に東京タワーを立てて比較してみることにした。
さらに横幅の長さは約3400mもある。幅も意外と大きい。
ちなみにエアーズロックはこれほど巨大な一枚岩だけど、世界で2番目に大きい一枚岩とされている。1番ではなく2番目なのだ。
てっきり世界最大の一枚岩なのかと思っていたら、1位では無かった。なんだかがっかり。
世界一の一枚岩はどこ?
では、世界一の大きさを持つ一枚岩はどこにあるのかというと、同じオーストラリア大陸にあるマウント・オーガスタスという山が世界最大の一枚岩とのこと。
マウント・オーガスタスの高さは858mと、エアーズロックの約2.5倍も高いのだ。
なぜ、世界一のマウント・オーガスタスよりもエアーズロックの方が有名なのだろうか?
様々な要因があるとは思われるが、マウント・オーガスタスはオーストラリア大陸の西側に位置していることが一番の要因として考えられる。
つまり、空港などの交通網が整備されている主要都市が東側に多いことから、アクセスしやすいエアーズロックの方が有名になったのではないだろうか。
ちなみに、マウント・オーガスタスという名称も1858年にフランシス・グレゴリーという人が付けた名前だそうで、現地のアボリジニたちの言葉では『バリングラ』というそうだ。
エアーズロックはアボリジナルの聖地
現在では、年間およそ65万人の観光客が訪れるほどの人気観光地となったウルル国立公園。
入園料だけでも数億円に達するほどなので、国立公園がもたらす経済効果は計り知れない。
しかし、アボリジニの中には現在の状況をあまり好ましく思っていない人も多いようだ。
エアーズロックを含むウルル国立公園は、多くのアボリジニたちにとって聖地ともいえる重要な土地。
アボリジニの決まりでは、エアーズロックは特別な儀式以外では登ってはいけないことになっており、観光客が気軽な気持ちで登ることに対して賛否が分かれているのだそう。
オーストラリア国内の土産物店では「私はウルル登山しません」とプリントされたTシャツやステッカーなども販売されていることもあるほど。
こうした背景から、エアーズロックの登山ツアーを組まない方針を表明している観光会社も多くあるという。
また、アボリジナルの祭事などが行われる際にはエアーズロックは登山禁止となる措置が取られており、宗教的な理由から写真撮影が禁止されている場所も多い。
このような背景を踏まえて、2019年には登山が禁止されることが発表された。もちろん、現時点ではルールに則って登山をすることは違法ではないが、安易な気持ちで登ることは控えるべきなのかもしれない。
エアーズロックはリース契約中?
それほど賛否が分かれる土地なのであれば、なぜ今まで登山が出来るようにされていたのだろうか?
そこには、深い大人の事情が絡んでいた。
先ほど説明したように、エアーズロックを含めたウルルは本来アボリジニが生活圏(聖地)としていた土地。そこにヨーロッパ人たちがやってきて土地を奪い取り、オーストラリアという国ができたのだ。
一度はすべてを奪い取られたアボリジニであったが、時代が変わり1967年に市民権が認められるようになると徐々に権利が回復され、1993年には先住権が認められるようになった。つまり、元々のアボリジニ居住地域の所有権が認められたのだ。
これにより、ウルル国立公園やエアーズロックもアボリジニによる団体が所有権を持つことになったのだが、この地域はオーストラリアの重要な観光地でもある。経済的にも観光地として継続させたいと思う人々もいた。
そこで、エアーズロックとその周辺は、オーストラリア政府にリースされることとなったのだ。1985年から2084年までの間、一帯の土地をオーストラリア国立公園に貸し出す形となっている。
現在では入園料の一部がアボリジニたちの貴重な収入源となっていたため、なかなか登山禁止には踏み切れなかったそうだ。
一度は間近で見てみたいエアーズロック!
今回はエアーズロック(ウルル)とアボリジニの歴史についてご紹介しました。
個人的にはエアーズロックが空気のエアーとは何も関係ないというのが意外でしたね。
2019年には登山禁止となるエアーズロック。興味のある方は今年中にエアーズロックからのカモノハシ観光なんていかがでしょうか。