【リュウケツジュ】ドラゴンの血を流す樹と古代の秘薬『竜血』の歴史

この世界には僕たちの想像を超えた不思議な植物が多く存在する。

今日紹介するのは「リュウケツジュ」と呼ばれる奇妙な樹木。『竜の血を流す=竜血樹』という中二病男子が喜びそうな名前の植物だ。

リュウケツジュとは

リュウケツジュとは、リュウゼツラン科ドラセナ属というグループに分類される樹木。『リュウケツジュ=竜血樹』の名前の通り、『ドラゴンの血液が流れ出る樹』として知られている。※APG分類体系ではスズラン科ドラセナ属とされる。

今回はリュウケツジュと、その樹液から作られる『竜血』の歴史について見ていこう!

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『ドラセナ・ドラコ』と『ドラセナ・シナバリ』

ドラセナ属の中でリュウケツジュと呼ばれるのは、主に『ドラセナ・ドラコ』と『ドラセナ・シナバリ』という2種類。

『ドラセナ・ドラコ』はアフリカ大陸の北西、大西洋上にあるカナリア諸島を原産とする常緑高木。ドラセナ属の中では最もサイズが最も大きくなる品種であり、高さ20mにも成長することで知られる。

ドラセナ・ドラコの幼木は観葉植物としても人気が高く、苗や種子は日本でも簡単に手に入れることが可能だ。

一方、『ドラセナ・シナバリ』はアフリカ大陸の西側、インド洋上にあるソコトラ島にのみ自生する樹木。いわゆる『固有種』というやつだ。

ドラセナドラコよりも乾燥した気候に適応するなどの特徴を持ち、過酷な環境を耐え抜くために独自の進化を遂げたと考えられている。

どちらも太い幹から無数の枝を密に伸ばした独特な形をしており、生態や特徴が似ている近縁種。

見た目の違いはほとんど無いように見えるが、ドラセナドラコはブロッコリーのような形をしているのに対し、ドラセナシナバリはキノコのような形をしているとも言われている。上の画像を見比べてみると、確かに形が少し違うようだ。

どちらもボトルを逆さまにしたような形をしているため、『ボトルツリー』と呼ばれることもあるらしい。

幹から流れ出す竜の血液『竜血』

リュウケツジュ最大の特徴は、その樹液。リュウケツジュの樹皮に傷を付けると、血液を連想させるような赤い樹液が滲み出してくる。

これがどういうわけか『ドラゴンの血=竜血』と結びつき、『リュウケツジュ(竜血樹)』と名付けられたそう。

ちなみに、リュウケツジュは英語でも『dragon’s blood tree』という名前で呼ばれている。こちらもわかりやすい名前だ。

さらに、リュウケツジュの属名である『ドラセナ』という言葉は『drakaina』というギリシア語が語源となっており、ヘビやドラゴンのような生物のことを指すという。リュウケツジュ特有の独特な形が、何かとドラゴンを連想させるのだろう。

リュウケツジュの樹液を乾燥させてドロップ状にしたものは『竜血』と呼ばれ、時には薬品として、また時には塗料として、古代より世界の商人によって取引されてきた。その歴史は2000年以上とも言われるから驚きだ。

このように、リュウケツジュは、ただの不思議な植物という訳ではなく、人類の歴史と深い関わりを持ってきた歴史的にも価値のある植物なのだ。

リュウケツジュについて

『リュウケツジュ』は本来『ドラセナ・ドラコ』の標準和名であり、厳密にはドラセナドラコ一種のみを指す言葉である。

ただし、これはあくまでも言葉の定義としての話であり一般的な用法としては様々な使われ方をする。

歴史的な観点から『竜血の採れる木』としてソコトラ島の『ドラセナ・シナバリ』を含める場合や、ドラセナ属の中で大きく育つ種類全般に『リュウケツジュ属』という別名を当てる場合もあるらしい。

ソコトラ島のリュウケツジュ

アフリカ大陸、紅海の入り口の東。インド洋の西端に浮かぶ「ソコトラ島」。

4万人程の人々が暮らす、この小さな島に『リュウケツジュ』が自生している。

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過酷な気候が生んだ独自の生態

ソコトラ島は年間を通してほとんど雨が降らない乾燥した気候であり、一年間の降水量は約250mm程度しかない。さらに、そのほとんどがモンスーンによって発生する霧の水分だそうだ。

そんなソコトラ島に住む生物達は、過酷な自然環境を生き抜くべく独自の進化を遂げた。

この島には、アフリカ本土と異なる生態をもった『この島にしか生息しない固有種』が300種近く存在しており、『インド洋のガラパゴス』という異名がつけられるほど独特な生態系を維持してきた。

その中でも一際目立つ植物が『ドラセナ・シナバリ』。僕たちが『リュウケツジュ』と呼ぶ植物だろう。

高さ10-20m程の大きな幹から大量の枝を伸ばし、つるぎ状の葉をびっしりと張っているのが特徴的だ。

これほどギュウギュウに葉をつけると光合成の効率が悪そうだが、このような形に進化したのには訳がある。

ソコトラ島が過酷な環境だと言われる原因は、やはり雨がほとんど降らないこと。植物にとって必要な水分が不足している状態である。

そこでリュウケツジュたちは、この慢性的な水分不足の環境を生き残るため、独自の進化を遂げた。

通常であれば光合成のために大きく広げるべき枝を密着させ、そこにビッシリと葉をつける事によって、海から吹き付ける霧を結露としてかき集める事を可能とした。

一見すると、ただの奇妙な形の樹なわけだが、その姿は過酷な気候を生き抜くための『知恵の結晶』だったのだ。

ソコトラ島を支えた『竜血』の歴史

リュウケツジュの幹から染み出す血液のような真っ赤な樹液。その樹液を乾燥させて作られる『竜血』は、ソコトラ島の歴史と深い結びつきがある。

古代のソコトラ島はインド洋での貿易において重要な中継地点とされ、アラブ人、インド人、ギリシャ人などを乗せた商船が次々と寄港していたと考えられてる。

島の歴史は古く、1世紀頃に書かれたとされる『エリュトゥラー海案内記』という書物でも紹介されているほど。とても重要な拠点とされていた。

当時からソコトラ島には多くの人が生活していたようだが、島内は岩山ばかりである上に乾燥の激しい気候。とても農業に向いているとは言えない環境だ。

そこで、島で唯一の特産物となったのが、リュウケツジュから作られる『竜血』。この特産品を販売することによって、ソコトラ島の人々は貴重な現金収入を得てきた。

固まった血液にも赤いルビーにも似た、妖美な雰囲気をまとった竜血は多くの人々を驚かせ、『血の宝石』や『ドラゴンの血』と称された。

ソコトラ島には多くの商人達が集まっていたこともあり、竜血は彼らの手によって世界各地に広がっていく。

古代ローマ時代には、鎮痛効果や止血のための薬品として重宝され使用された。傷の手当てなどに外用薬とするほか、内服薬としても用いられたという。

また、中世期には染料やラッカーとして用いられるようになる。

はじめは、家具やバイオリンの製作において、仕上げ用のワニスに赤みを加える目的で配合された。

さらに、化学染料が発明される前には、赤インクの原料とされていた時代もある。竜血が作り出す深く味わいのある色は『赤い金』と称され、もてはやされた時代もあったそう。

一部では、錬金術や魔術のための素材としても用いられたと言われており、現在でも、風水や占いなどのスピリチュアルな分野で活用されているようだ。

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世界遺産登録が悪影響?リュウケツジュが絶滅の危機に

何十代にも渡ってリュウケツジュの恩恵を受けてきたソコトラ島のとある村には、『掟』ともいえる、以下ような言い伝えがある。

『一度、竜血を採取した樹は、2年間は休ませなければならない。』

『竜血』を採取するにはリュウケツジュの幹を傷付ける必要があるのだが、これはリュウケツジュにとっては身体を傷つけられることに他ならず、多少なりともダメージを受けることになってしまう。

大木に育ったリュウケツジュの中には樹齢7000年とも推定される個体もいるほど。つまり、一度枯れさせてしまうと、大量の竜血が採れる大きさに育てるまでに数百年以上かかってしまうのだ。

そこで、ソコトラ島の人々は、先ほどの言い伝えを守ることで、リュウケツジュをいたわりながら共生関係を続けてきた。

ところが……。2008年にソコトラ島が世界遺産に登録されたのをキッカケに事態が急変する。

世界遺産に登録されたソコトラ島には、多くの観光客が訪れるようになったのだ。

その結果、島唯一の特産品である『竜血』がかつてないほど人気となり、ソコトラ島は竜血ブームによるバブル状態となった。「竜血を売れば儲かる」と聞きつけた、多くの人々が竜血の採取を始めたのだ。

はじめは景気の良かった竜血ブームだったのだが、急激に売り手が増えたことで竜血の単価が下がってしまう。供給に需要が追い付かず、あまり儲からなくなってしまったのだ。

その結果、ソコトラ島内では「単価が下がったのでもっと竜血を採りたい人々」「これ以上はリュウケツジュが枯れてしまう可能性があるので樹を休ませるべきと考える人々」が対立することとなった。

幾度と話し合いを経ても両者の言い分は平行線のまま。目の前の利益を追求する者と未来の利益を守ろうとする者では理想が違いすぎていたのかもしれない。

どうするべきかを決めかねていた頃、ついにその時がやってくる・・・。

なんと、リュウケツジュが次々に枯れ始めたのだ。

リュウケツジュが枯れ始めた原因とは?

そもそも、ソコトラ島に自生していたリュウケツジュはどれも年老いた樹ばかりだった。かつて、人間たちが島に持ち込んだヤギたちによって、若い苗木が全て食べられてしまっていたのだ。

しかし、リュウケツジュは数千年の寿命を持つ長寿の樹。島中のリュウケツジュがタイミングを合わせて枯れ始めるのは異常である。

「掟を破って無理に竜血を採取した天罰かもしれない!」

そう思ってしまいそうなものだが、その原因は意外なものだった。

先ほど、『雨の少ないソコトラ島のリュウケツジュたちは、海からやってくる霧の水分をかき集めることで、乾燥した期間を凌いで生き抜いてきた』と説明した。

乾燥に強く進化した植物とはいえ、水分が全くない環境では生きていけない。そこで、霧の水分を使って生き抜いてきたのだ。

しかし、近年の地球温暖化の影響で海面の温度が上昇し、以前よりも高地で霧が出来るようになってしまった。これまでリュウケツジュの周りに発生していた霧が無くなってしまったため、生きていくのに必要な水分すら手に入らなくなったのだ。

このままだと、約30年で竜血樹が島から消えると唱える学者もいる。島民たちはどうにかリュウケツジュを守ろうと試行錯誤しているそうだ。

しかし、霧の発生場所を本来の位置に戻すには地球規模での対策が必要になるだろう。数年間、樹を休ませる程度の対策では太刀打ちできない深刻な状況を、世界中の人々が作り出してしまったのだ。

今後、『竜血』の採取が出来なくなるソコトラ島の人々は生活が苦しくなるだろう。ソコトラ島で起きていることは、地球規模で同じような現象が起きることを予期しているのかもしれない。

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