食虫植物の中でも特に人気の高い植物『ハエトリソウ(別名ハエトリグサ)』。
私たち人間の眼でも確認できるほどダイナミックに動く植物で、不足する栄養を補うために昆虫などの動物を食べる植物として有名だ。
人食い植物のようなイメージが強いハエトリソウなのだけど、普段はどのような環境でどんな生活を送っているのだろうか?
今日はハエトリソウの特徴と生態、自生地と獲物を捕らえるための罠の仕組みついて紹介したいんだ。
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ハエトリソウ
ハエトリソウは北米大陸を原産とする食虫植物。世界的に有名な植物でありながら、ごく一部の地域にしか自生していない希少な種。

植物の分類では【ウツボカズラ目モウセンゴケ科ハエトリグサ属】というグループに属しており、人工交配などによって多くの品種が生み出されているそうだ。
二枚貝のような捕虫器を持っているのが特徴的で、捕虫器に入り込んだ昆虫などをパクッと捉える。
世界では様々な食虫植物が発見されていますが、これほど大きな動きをする植物はハエトリソウ以外には見当たらない。
ハエトリソウの特徴
タンポポのようにロゼット状に葉を広げ、茎は短くほとんど見えない。葉の付け根は肥大化しており、地下茎とともに球根状になっている。

ハエトリソウの最も特徴的な部分は、やはり葉の先端についた捕虫器。
二枚貝のような捕虫器の縁には、捕らえた昆虫を逃がさないようにするためのトゲが並んでいる。この捕虫器で虫などの動物をパクっと捕まえるのだ。
捕虫器は緑色のものが多いですが、品種によっては赤みを帯びているものや、全体が真っ赤のものもある。ちなみに、枯れてくると葉が黒く変色してくる。
ハエトリソウの名前の由来
ハエトリソウという名前は、その名の通り「ハエ」などの昆虫を大胆に捕らえる姿が由来となっている。

もっとも、ハエを捕らえることができる食虫植物はハエトリソウ以外にも多く存在しているのだが、ハエトリソウほどダイナミックな動きをする者はほとんどいないのだ。

また、英語ではVenus Flytrap(ヴィーナスフライトラップ)と呼ばれているが、日本語に訳すと「女神のハエ捕り罠」といった意味になる。
こちらは、ハエトリソウの捕虫器についたトゲがまつ毛のように見えることに由来しているそうだ。
ハエトリソウの別名
ハエトリソウには多数の別名がある。
有名なのが『ハエトリグサ』という名称なのだけど、やはりハエトリグサよりもハエトリソウと言う方が一般的かもしれない。
また、マイナーなところでは『ハエジゴク』と呼ばれることもあり、ハエトリグサの捕虫能力の高さを表している。
英名は、先ほど紹介したVenus Flytrapというのだが、正確な学名ではDionaea muscipulaという。
そのため、ネットの通販店なんかでは学名で『ディオネア』と呼んでいるお店も多いようだ。なんだかカッコいい感は出るね。
『ハエトリグサ』と『ハエトリソウ』どちらが正しい?

日本で使われる「呼び名=和名」に関しては、どちらが正しいというワケでもないのだけど、ネットでの月間検索数は『ハエトリソウ』の方が2倍近く多くなっており『ハエトリソウ』と呼んでいる人の方が多いようだ。
一部では「『ハエジゴク』という名称がハエトリソウの標準和名である」との意見も見かけるが、そもそも標準和名というのは学名ほど厳格な規定で付けられているものでは無いため、一般的には様々な和名が用いられている。
つまり、学名以外は好きなように呼べばいいのだ。ちなみにワニオはハエトリグサ派である。
ハエトリソウの自生地
ハエトリソウは熱帯雨林の植物であると思われがちだが、意外にも温帯地域を中心に自生している植物。

ハエトリソウの故郷は、北米大陸(アメリカ合衆国)の東海岸。ノースカロライナ州からサウスカロライナ州にかけて分布しており、湿度の高い湿地帯という環境に自生している。
木々の生い茂るような栄養豊富な土地に生えているイメージがあるが、ハエトリソウの自生する環境はどちらかといえば痩せた土地。
多くの食虫植物は、養分が不足している場所や偏っている場所など、他の植物が苦手とする環境に自生している。
捕虫によって不足する養分を補う能力を得た食虫植物たちは、ライバルの少ない痩せた土地に生息範囲を広げることができたのだ。
栽培が容易なため日本でも比較的簡単に手に入るハエトリソウだが、野生種は一部の地域にしか生えていない珍しい植物なのだ。
ノースカロライナ州からサウスカロライナ州にかけて自生地の多くが保護区に指定されており、ワシントン条約で球根の輸出入は全面禁止されている。
ハエトリソウは冬を越せない?
ハエトリソウの自生地は日本と同じく四季がある気候。そのため、ハエトリソウは日本でも育てやすい植物の部類だそうだ。
日本の植物店でも観賞用に品種改良されたハエトリソウが多く流通しており、比較的容易に入手できる。

ちなみに、ハエトリソウは冬になると枯れてしまうため、「冬を越せない植物」だと思っている方も多いようだ。
しかし、実際には冬の寒さに耐えるために地上葉を全て枯らして休眠しているだけ。
室内での栽培においては、寒さが足りずに上手く休眠が出来ないため、衰弱して枯れてしまうことも多いみたい。
ハエトリソウの花
よく勘違いされるのだけど、ハエトリソウの捕虫器は葉の一部であり『花』ではない。
世界でも限られた一部の地域にしか自生しないためなのか、ハエトリソウに花が咲くことを知らない人も多いようだ。
ハエトリソウの恐ろしい捕虫器のイメージとは異なり、とても可愛らしい白い花を咲かせる。
繁殖も比較的容易で、自家受粉によって簡単に結実させることができるのだとか。
果実が割れると、中から胡麻粒状の真っ黒な種子が出てくるらしい。かなり真っ黒でつやつやしてる。
もちろん、この種子を蒔けばハエトリソウを種子から育てることも可能だ。
ハエトリソウの花言葉
花言葉とは植物の印象を言葉で表したもの。意外かもしれないが、可愛らしい花を咲かせるハエトリソウにも花言葉が付けられている。
ハエトリソウ(ハエトリグサ)の花言葉は「嘘」や「魔性の愛」など。

甘い誘惑で昆虫をおびき寄せ、捕らえてしまうハエトリソウにぴったりの言葉だね!
ちなみに、花言葉は厳格なルールのもと決められているわけではない。
花言葉自体は海外発祥の文化なのだが、日本独自に変化したものも多くあるため、ハエトリソウのように複数の花言葉を持つものも少なくないという訳だ。
ハエトリソウの捕食能力
冒頭で、ハエトリソウは「パクっと昆虫を捕食する」と説明したのだけれど、どのように捕食を行うのだろうか?
世界各地には様々なタイプのトラップを持った食虫植物が存在しているが、ハエトリソウは数ある食虫植物の中でも特に珍しい『挟み込み式』の罠を持っている。
以下は捕食の瞬間を捕らえた動画。※昆虫注意!
ハエトリソウは捕虫器の中に高感度のセンサーを持っており、ハエなどの昆虫が捕虫器の中に入ると、0.5秒という素早いスピードで葉を閉じて昆虫を押しつぶす。
葉の縁に並んでいるトゲは、葉が閉じると交互に噛み合う形となり、昆虫が逃げないための柵の役割を果たすのだ。
1日ほどで葉は完全に閉じられ、葉の内側から消化液を分泌。捕らえた昆虫をじわじわと消化吸収していくという。

10日ほど経ち、昆虫の養分を吸収し終えると、再び葉を開いて死骸を捨て、次の獲物を待ち続ける。
ただし、捕虫器を動かすことは多大なエネルギーを消費するため、ハエトリソウの葉には寿命があるらしい。大体2-3回ほど獲物を捕らえると消耗して枯れてしまうのだとか。
ハエトリソウの罠の仕組み
ハエトリソウは植物でありながら素早い動き昆虫を捕まえることができるのは先ほど紹介した通り。
では、どのようにして獲物が来たことを知るのだろうか?
ハエトリソウは植物なので目や鼻があるわけではない。その代わりに獲物の存在を検知するための感覚毛を持っている。
二枚貝のような捕虫器の内側には3-4本ずつ毛が生えており、この毛がセンサーの役割を果たす。
この感覚毛にハエなどの昆虫が触れると、獲物が来たと判断して葉を閉じるのだ。パクっと。
この動画をみると感覚毛にシッカリ触れないと閉じないのが分かる。※昆虫注意
しかし、葉を閉じる動作はとてつもないエネルギーを消費する。獲物がいると勘違いして何度も葉を閉じてしまっていてはすぐに枯れてしまう。
したがって、「感覚毛に2回触れる」または「2本以上の感覚毛に同時に触れる」という条件が揃って初めて葉を閉じる仕組みとなっているのだ。
このルールによって、雨の水滴などが当たった場合の誤作動を無くすとともに、より確実に獲物を捕らえることができるという。頭いいねハエトリソウ!
ハエトリソウには記憶がある?
「感覚毛に2回触れる」または「2本以上の感覚毛に同時に触れる」といった条件のみで葉を動かすハエトリソウ。この仕組みは、確実に獲物を捕らえるための適応であると考えられている。

しかし、感覚毛に一度触れた後、次に触れるまでに20秒程の間隔があると葉は半分程度しか閉じない(全く閉じない場合もある)ということも分かっているそうだ。
一見、単純にも思える行動なのだが、この行動は「ハエトリソウが時間を計測する能力を持っている」ということになる。

このような行動を取るためには『感覚毛に触れられたことを記憶し、時間を計測し続け、規定の時間に達すると記憶をリセットする』という一連の流れが必要。
なぜ「20秒」という時間を計測できるのかについてハッキリとしたことは未だに分かっていないそうだが、2010年に発表された研究結果によると、どうやら『ジャスモン酸グルコシド』という物質が関与しているのだとか。

この物質は感覚毛に触れることで放出されるのだが、1回の刺激だけでは葉が閉じる運動を起こすのに必要な量に足りないため葉は閉じない。
さらにもう一回、計2回の刺激することで初めて必要な量に達し、完全に葉を閉じることができるという訳だ。
ちなみに、獲物を捕らえることに成功した捕虫器は10日程度開かないが、獲物を取り逃がして閉じてしまった葉は3日程で開くことも確認されている。

もしかすると、ハエトリソウは私たちと同じように時間の感覚を持っているのかもしれない。
育ててみたいぜハエトリソウ!
とても奇妙な生態を持っており、希少な植物であるハエトリソウ。

これほど珍しい生物でありながら、お手頃価格で簡単に手に入る植物というのも珍しいのではないでしょうか?
ハエトリソウの生態を間近で見てみたい人は、手っ取り早く育ててみるというのもオススメですよ!
ちなみにワニオは過去に2度枯らしてしまっています(泣)葉を動かして遊ぶのはやめとけよー!マジで枯れるから!