恐竜たちが地上を支配する弱肉強食の世界で「空」という特殊な環境で繁栄を極めた『翼竜』。
映画や小説などでは「空から襲いかかる獰猛なハンター」として描かれがちだが、『翼竜は飛べない』という仮説すら存在する。実際の翼竜たちはどのような生活を送っていたのだろうか。
今回は太古の空の支配者『翼竜』の生態と種類、恐竜との違いなど、あなたの知らない翼竜の世界を堪能しよう!
翼竜とは?
翼竜は三畳紀・ジュラ紀・白亜紀に生息した爬虫類の一種。一般的には「プテラノドン」などが有名だが、その種類は多岐にわたり現在までに60種以上が発見されているそうだ。

翼竜たちは鳥類が空を飛び始める以前に、空を生活圏とした最初の脊椎動物だ。恐竜たちが地上を支配していた時代に「空」というニッチな生活圏を手に入れることで繁栄することに成功した。

現生の鳥類と比べてみても「翼竜は飛べなかったのではないか?」という説も存在したほど華奢な体格をしているが、軽量化された胴体とコウモリのような大きな翼を使って自由に空を飛びまわっていた可能性が高いと言われている。
翼竜の生息した時代と絶滅
翼竜が生息した時代は今から約2億年以上も前。アンモナイトたちが海をうようよと泳いでいた三畳紀中期以前にはすでに誕生し、様々な種に進化を遂げながら1億年以上もの間『空の覇者』として繁栄を極めた。

それまで昆虫たちだけが生活の場としていた『空中』という生活環境を手に入れることで捕食者から逃れ、飛行という機動力により自由に獲物を捕らえることができたようだ。
ジュラ紀が終わり白亜紀に入るとプテラノドンなどの大型で尾の短い種が繁栄した。この頃には原始的な鳥類たちが現れ始めており、鳥類との競争に打ち勝つためより大型になる必要があったと考えられている。

翼竜の絶滅時期と原因については諸説あるが、白亜紀末の大量絶滅期(K/Pg境界)に入り、恐竜・魚竜・首長竜など多くの大型爬虫類が絶滅していく中、翼竜たちの時代も終わりを遂げることとなった。
翼竜の大きさと最大種
ひとくくりに翼竜と言っても、その大きさや種類は様々だ。現在のコウモリ程度の大きさのものから、キリンに匹敵するほどの巨大な体格の翼竜も実在していた。

現在分かっている翼竜の最大種「ケツァルコアトルス」は翼を広げた大きさが最大12mにも達しており、背丈は現在のキリンほどもあったという。
ケツァルコアトルスの発見当初、あまりの巨大さから「翼竜は飛べなかったのではないか?」という仮説も生まれ、数々の議論を巻き起こした。

これほどまでに巨大な身体でありながら体重は成人男性1〜3人分程度だったと推定されており、自ら羽ばたいて飛び立つことが可能だったとの説もあるようだ。
翼竜と恐竜の違い
まず初めに確認しておきたいのは翼竜は恐竜ではないということ。翼竜は【主竜類>翼竜目】というグループに分類される爬虫類。古くから恐竜図鑑などでは「空飛ぶ恐竜」というキャッチフレーズで紹介されることが多かったため、恐竜の一種であると思われがちだが定義上は恐竜では無いのだ。

分類方法は色々とあるが、一般的に恐竜といった場合、主竜類の中の「獣脚類」というグループから鳥類を除いた生物を指す。つまり、翼竜目に分類される翼竜は恐竜ではないという事になるのだ。
ややこしいが、この分類方法では鳥類も恐竜という事になる。色々とややこしいので最近では鳥類を除いた恐竜を指す言葉として「非鳥類型恐竜」という用語も使われるようになっている。

ちなみに「海の恐竜」と言われることもある「魚竜」や「首長竜」なども分類上は恐竜ではないので要注意だ。
翼竜の身体の特徴
翼竜の翼は鳥類のものとは異なり、長く伸びた前脚の指に薄い膜を広げた現在のコウモリのような形状をしていた。

飛膜には神経や筋肉が張り巡らされていたことも分かっており、膜の形状を変化させることで状況に合わせた高度な飛行能力を持っていた可能性もあるという。また、一部の種では飛膜に羽毛が生えている化石も発見されており、想像以上にフサフサの鳥のような姿だった可能性もある。

Dmitry Bogdanov CC 表示-継承 3.0
また、種類や生息時期によって特徴が大きく異なっている。初期に繁栄した「嘴口竜亜目」というグループでは小型で尾の長い種が多く、トサカのような物は見当たらない。そして多くの種が歯を持っていたことも分かっている。

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「嘴口竜亜目」の翼竜から進化した「翼指竜亜目」の翼竜たちは、より大型に進化し、尾は退化もしくは消失している。頭部にはトサカ状の構造が発達し、歯が退化したものも多かったようだ。
頭部の長いトサカの使用方法については諸説あり、求愛ディスプレイ説、飛行時に舵として使う説、わずかな力でクチバシを動かすための重り説などが存在している。
翼竜は何を食べていた?
翼竜の食性は魚食性と虫食性に別れていたと考えられている。エウディモルフォドンの化石からは胃の内容物として魚のウロコが見つかっており、ランフォリンクスからは半分程消化された魚の胴体も発見された。

翼竜の中でも特に有名なプテラノドンでは、魚を足で掴んで飛ぶほどの力は無かったと言われている。現在のペリカンと同じように、袋状になった下顎に魚を貯めて巣まで持ち帰っていたという説が有力だ。また、化石からは歯の存在が確認できないため、ある程度大きな魚も丸呑みにしていたと考えられている。
翼竜は飛べなかった?
ジュラシックパークをはじめとする恐竜映画で注目を浴びたシーンが、巨大な翼竜が市民を足で捕まえ大空へと飛び立つ場面だ。他のエンタメ恐竜映画でもたいていの場合、翼竜は空から襲い掛かる獰猛な肉食生物として描かれることが多い。だがしかし、「実際には大型の翼竜は飛べなかったのではないか?」という説が存在するのだ。

飛べない派の意見としては、「膜で出来た翼は巨大で重量のある体重をさせきれなかった」「現生の鳥類と比べてみても筋力が不足している」との主張が多い。それに対して飛べる派の意見は、「特殊に軽量化された骨格構造で想定よりも遥かに軽い体重を実現していた」「現生の鳥のように羽ばたくのではなくグライダーのように滑空する飛行方法だった」という説が多い。

現在では「種によっては滑空がメインであるが、翼竜は多少なりとも飛行可能だった」という説が有力であるが、今でも学者たちの議論が続いている謎の一つとなっている。未だに全ての専門家を納得させうる完璧な証拠が整っていないのが現状なようだ。
翼竜の種類
60種以上もの化石が発見されている翼竜たち。最後に、その中でも代表的な種をピックアップしてみよう。
・プテラノドン
まさに「King of 翼竜」。プテラノドンこそ翼竜の中で最も有名といってもいいだろう。名前の由来は「翼があり歯がない」という意味。ちなみに中国語では「無歯翼竜」と表記される。

翼開長7‐9mと意外に大きいがそれほど筋肉はなかったと考えられており、推定体重は15‐20Kgと人間の4歳児程度の体重しかなかった。
ちなみに、恐竜の代表格であるティラノサウルスと翼竜の代表であるプテラノドンが一緒に描かれるイラストなどが多く存在しているが、プテラノドンはティラノサウルスが誕生する約6800万年前にはすでに絶滅しており、生息時期に約600万年の差があるとされている。
・ディモルフォドン

ジュラ紀に生息した翼竜で、全長1mに対して翼開長1.4mと翼竜の中でもどっしりした見た目を持つ。歯と4本の牙を持っており、歯の生え方から魚食性であったと考えられていたが、近年では昆虫などを食べていた可能性も指摘されている。
・ゲオステルンベルギア

元々はプテラノドン・ステルンベルギという名前でプテラノドンの一種に含められていたが、2010年に独立した。斧状の不思議なトサカが特徴的で年齢や性別によってトサカの形状が異なることも分かっている。
・ケツァルコアトルス
史上最大級の飛行生物で、翼開長は約12m。体高は5mを超えるキリンに匹敵するほど大きいが体重は70Kg程度(キリンは1t超え)だった。

ちなみに、ケツァルコアトルスは長年地球史上最大の飛行生物と考えられてきたが、近年これを超える可能性の高い翼竜の発見が続いており、『史上最大”級”』へと格下げになっている。
・ハツェゴプテリクス

ルーマニアで発見された史上最大であることが有力な翼竜の一つ。推定翼開長は12m以上。骨の密度が高くケツァルコアトルスよりも重かったため飛べなかったとする説も存在する。
・アランボウルギアニア

こちらも史上最大級の翼竜で翼開長は12m以上とする説がある。ただし、その後の研究では7mほどしかなかった可能性も指摘されており、実際にはそれほど巨大ではなかった可能性もある。
・プテロダクティルス

世界で最初に報告された翼竜で、現在分かっている中では最古の翼指竜亜目の一つ。1784年に化石が発見され、当初は「爬虫類か?鳥類か?それとも哺乳類?はたまた水生生物か?」といった論争が続いていた。
翼開長25‐50㎝と比較的小型で、長いクチバシを使ってゴカイなどの小動物を漁っていたのではないかと考えられている。
・ランフォリンクス

プテロダクティクスなどとともにジュラ紀に生息した翼指竜亜目の翼竜。上下のあごにはシッカリと噛み合う歯が残っており、さらに胃から魚類の化石が確認できたことから、魚食性であったことは間違いないと言われている。
・ニクトサウルス

約8700万-8200万年前に生息していた翼開長3mほどの中型の翼竜。分岐したトサカは頭骨長の3倍以上と奇妙な形をしているのが特徴的だ。このトサカに飛膜を張ることで舵として使っていたという説もあるようだが、いまだに詳しい事は分かっていない。
・プテロダウストロ

翼開長は1.3mと中型であるが、非常に長い頭部を持つ。口吻は上に向かって大きく湾曲し、下顎には針のような細かい歯牙が1000本以上、密度にして1㎝あたり24本も並んでいた。この細かい歯をフィルターとして使うことで水中の小動物を濾して食べていたと考えられている。