世界には1万種を超える蟻が生息していると言われている。約1億2500万年前にスズメバチの仲間から分化したアリたちは、膨大な時間をかけて世界各地へと生息域を広げることに成功した。

さらに、人間や荷物が世界を飛び回るようになると、もともと蟻が生息していなかった地域にまで生息地域を広げていったようだ。例えば、もともと蟻が生息していなかったハワイ諸島では、現在47種のアリが確認できるそうだ。

アリたちは世界のあらゆる環境に適応していく中で、その地域に合わせた進化を1億年ものあいだ続けてきた。その結果、世界にはレパートリーに富んだ多種多様な姿かたち、生態を持つアリたちが誕生したのだ。

今回は、世界に存在する奇妙な姿のアリや面白い生態のアリ、人間を死に至らしめるほどの猛毒を持つ危険なアリまで…様々な蟻の種類を画像とともに紹介していこう!
面白いアリ
ジバクアリ
ジバクアリは、その名の通り『自身の身体を爆発させることで、敵を道連れにする』自爆型のアリ。別名『バクダンオオアリ』。

敵に襲われた際に戦況が劣勢に陥ると、刺激臭のある粘着性の物質を放出し、敵の動きを封じ込めたうえで、とてつもない威力で自爆する。
粘着性の物質から発せられる刺激臭は、自爆の瞬間に味方を巻き込まないように、周囲の見方に自爆を知らせる効果があると言われている。
ハキリアリ
ハキリアリは中南米の熱帯雨林に広く生息する蟻の一種。ハキリアリは、木に登っては葉を切り落として巣に運び込む性質を持っている。
この葉は食料という訳ではなく、この葉に菌類を植え付けることで菌類を栽培し食料にする。いわば「農業を行う蟻」なのだ。

ハキリアリの大きさは3~20㎜と個体によって差がある。大きい個体は木の枝についた巨大な硬い歯を切り落として地面に落とす、中型の個体がその葉を運べるサイズに切り刻む。さらに細かい作業を小型の個体がこなすという分業制度を取っている。
トゲアリ
日本各地でも確認できる比較的身近なアリ。背中のトゲが印象的で、体長は7~8㎜と日本では大型の種だ。
ちなみにトゲがあるのはメスのみで、オスは翅アリでもっと毛深い。

トゲアリは他のアリの巣を乗っ取る『一時的社会寄生』を行う昆虫としても有名だ。
トゲアリの女王蟻は、別種のアリが生活する巣に侵入すると、働きアリたちと格闘しながら巣の中心を目指す。
そして、その巣の女王蟻を殺すことで、その巣の女王にとって代わり、働きアリもろともその巣を支配するのだ。
変なアリ
タートルアント(ナベブタアリ)
タートルアントは、平らになった特徴的な頭部を持つ奇妙なアリ。

タートルアントは巣穴に入ると、巣穴の入り口にパカッと頭でフタをするという特殊な生態を持っている。
その姿はまるでマンホールのふたのようでもあり、外敵の侵入を防ぐことが出来るのだ。

穴に身体を入れ、頭部を引っ込める姿から『タートルアント=亀アリ』と呼ばれている。
ミツツボアリ
北米やオーストラリア大陸の砂漠などの乾燥した地域に生息するミツツボアリ。
花があまり咲かない地域のため、蜜を得る機会が訪れると腹部がパンパンに膨れるほどの蜜を集めることで知られている。

ミツツボアリの中には、通常の働きアリとは別に蜜貯蔵担当の働きアリが存在する。蜜貯蔵担当のミツツボアリは、サナギから成虫になると同時に大量の蜜を与えられ、風船のように腹部が膨らんでしまうのだ。
大量の蜜を与えられた蟻は膨れたお腹が邪魔で動き回れないので、天井にぶら下がり、逆さまになったまま生活する。
アシナガアリ
名前の通り脚が長くスマートな体形のアリ。日本でも一般的なアリで、森林周辺などの湿気の多い場所で見つけることができる。

湿度の高い環境を好むことから、家の床下などに住み着く場合もあり、ヒアリが危険外来生物として話題になった際には、身体の赤みからヒアリと勘違いする人も多かったようだ。
ミゾガシラアリ
背中ミゾの部分のトゲが蟻の中で最もイカツイのが特徴。専門的にいうと『前伸腹節刺』というらしい。とげとげしい見た目だけれど凶暴な訳でも、トゲに毒があるわけでも無い。

ミゾガシラアリは、オーストラリアなどで多くの種が確認されているアリだが、例外的に日本で1種類だけ生息が確認されている。
ハダカアリ(Cardiocondyla pirata)
ハダカアリは世界中の熱帯から温帯に生息する比較的メジャーなアリ。
その中でもCardiocondyla pirataという種は、全種類のアリの中でも特に奇妙な色素沈着のパターンを持っているのが特徴だ。

白と茶色が身体の節ごとに交互に表れているが、なぜこのような姿に進化したのかは謎だ。天敵からの保護色のような役割を果たしているという説もある。
巨大なアリ
ディノハリアリ(オソレハリアリ)
ディノハリアリは南米の熱帯雨林に生息する世界最大のアリ。女王蟻は最大3~4㎝にまで成長することで知られており、日本最大級のクロオオアリと比べても2倍近い体長を持っている。

女王蟻が全てのアリを支配する女系社会のコロニーを形成し、オスアリは繁殖のために年に1回だけ生み出される。
身体が大きい分、アゴの噛む力も強く、巨大な腹部の毒針からは大量の毒液を放出する。自分よりも大きな両生類や爬虫類にも積極的に襲い掛かりエサにしてしまう恐ろしいアリだ。
ギガスオオアリ
ギガスオオアリは、東南アジアに生息する世界最大級の大きさを誇るアリ。その大きさは最大級の個体だと3㎝に達する。通常の個体でも2㎝という巨大な体格を持っている。

食事を探す働きアリは100mもの距離を歩き回ることもあるそうだ。
ブルドッグアリ(キバハリアリ)
クワガタのような長い大アゴが特徴的なキバハリアリ。現在、キバハリアリの仲間は90種以上が確認されている。
英名では『ブルアリ』や『ブルドッグアリ』と呼ばれ、一部の種は自身の体長の数倍もの高さまで飛びついて攻撃してくることから『ジャックジャンパー』とも呼ばれている。

最大級の個体の体長は、働きアリであっても37㎜に達し、世界最大のアリと言われることも多い。
かなり好戦的な性格で、巣に近づくものは大型の哺乳類などであっても躊躇せずに襲い掛かる。大型種に目を付けられると逃げても後を追いかけてくることもあるという。
ムネアカオオアリ
ムネアカオオアリは、北海道から九州まで日本全土に生息する蟻の一種。女王蟻の大きさは16~17㎜に達し、クロオオアリと並んで日本最大のアリとされることもある。

アブラムシから蜜をもらう代わりに、天敵であるテントウムシからアブラムシを守るボディガードを担うなど、面白い生態を持っている。
一方で、寄生種であるトゲアリには眼を付けられやすく、巣を乗っ取られやすいという特徴もあるようだ。
ティタノミルマ
ティタノミルマは今から約5600万年前~3390万年前の新生代古第三紀始新世に生息していた巨大なアリ。

蟻といっても、現在のアリたちとは大きく異なり、体長は女王蟻で6㎝、翼開長は15㎝に達していた。現在の小鳥ほどの大きさだと考えるといかに巨大な昆虫だったのかが分かる。
最小のアリ
カレバラアリ
カレバラアリ属は、熱帯地方などに分布するアリ。世界中に174種以上が確認されている。カレバラアリ属のアリは種によって体長の差が大きいのが特徴だが、最小級の種だと体長1㎜に満たない。

一部の種はシロアリの巣の中で寄生的に生活することが確認されることもあるようだが、詳しい生態については分かっていない。
コツノアリ
コツノアリは日本に生息するカレバラアリの一種。学名は『Carebara yamatonis』。働き蟻の体長はわずか1mmで、地面の上を歩いていても全く違付かない程度の大きさだ。

世界の最大級のアリと比べてみると、その体長は約1/40ほどの大きさしかない。大きさの違いを例えるならば、身長170㎝の人間と単4乾電池くらいの違いだ。
危険なアリ
ヒアリ
ヒアリはアルカロイド系の毒と強靭な針を持つ危険なアリ。身体が赤みを帯びていることからアカヒアリの別名でも知られている。
刺されたとしても多くの場合、死に至ることはないが、アナフィラキシーショックを引き起こし、呼吸困難や心臓麻痺などを引き起こす可能性があるため”殺人アリ”と称されることもあるようだ。

2017年には、日本にも流入が確認されたことで知っている人も多いだろう。世界各地に生息域を広げており「世界の侵略的外来種ワースト100」にも選定されている。
パラポネラ(サシハリアリ)
サシハリアリ、通称パラポネラは中南米の湿潤地帯に生息する蟻。刺された痛みはアリ・ハチ類の中で世界一とも称され、その痛みが24時間は持続することから、現地では”hormiga Veinticuatro=24時間のアリ”と呼ばれている。

ブラジルの先住民たちは、戦士になるための通過儀礼として、サシハリアリを編み込んだ手袋に手を入れるという儀式を行うそうだ。儀式の後は数日間手がしびれているそうだが、戦士と認められるまで、この儀式を20回行うそうだ。
トビキバハリアリ
巨大なキバに巨大な毒針をも持っているトビキバハリアリ。攻撃力だけでなく俊敏さも持ち合わせており、10~20㎝以上ものジャンプを行い飛び付いてくることもあるそうだ。

トビキバハリアリは、染色体の数が2本と全生物の中でも最も少ない部類の生物種としても知られている。ちなみに人間は46本、ザリガニは200本、シダの一種では1260本の染色体を持っている。
グンタイアリ
グンタイアリは、地面を覆いつくすほどの隊列を組み、時速1000mという猛スピードで大行進する姿から『軍隊アリ』と名付けられた。
隊列の長さは20mにも達し、渡れないほどの高低差などもアリ自身が集まって橋やハシゴを作ることで難なく進んでいく。

行進の途中で見つけた小動物や昆虫を襲って捕食し、グンタイアリの行進の後には残骸すら残らないと言われている。時には牛や馬などの大型哺乳類ですら食い殺すこともあるという。
ハシリハリアリ
ハシリハリアリは、グンタイアリやサスライアリと同じように狩りをしながら放浪する巣を持たないアリ。世界の熱帯に約300種が確認されている。

大型種は1㎝を優に超える全長を持ち、刺された際の激痛はグンタイアリをも超えるとも言われている。
日本でも九州南部~沖縄と周辺の島々にハシリハリアリの一種が確認されている。
アリみたいな生物
アリグモ
アリグモはアリに擬態しているハエトリグモ類の一種。その擬態は完璧で遠くから見ると確実にアリと勘違いしてしまうほど。

脚を頭部の上に持ち上げることで、蟻の触覚に見せるという細かいところまで完コピしている点には脱帽だ。
あまり身近な生物には思えないが、実は北海道南部から沖縄まで日本全国に生息している。

何故アリのふりをしているのかについては諸説あるが、肉食性で大型の獲物すらも大群で倒してしまうアリに擬態することで、クモの天敵となる生物から身を守っているのではないかと言われている。
シロアリ
湿度の高い日本では最も嫌われるアリが「シロアリ」だろう。アリと名前についてはいるが、実際にはゴキブリの仲間であることは有名。

ちなみにシロアリの女王は昆虫の中でも最も長寿であると言われており、中には30~50年も生存し続ける個体もいるらしい。
木造の家を食べることから害虫として嫌われているが、自然界においては植物繊維や細胞壁の分解に大きくかかわっているため、絶対に無くてはならない存在でもある。
パンダアリ
パンダのような蟻にも見えるが、実際には「アリバチ」と呼ばれる翼のない蜂の仲間。腹部には針も持っており、刺されるとメチャクチャ痛いそうだ。

アリバチの幼虫は他の昆虫の幼虫などに寄生する生物として知られている。母親パンダアリは翅が無いため地上を歩き回り、宿主となる昆虫の幼虫を探して産卵するという。なんとも恐ろしい生物だ。