今からずっと昔…まだ生物が陸上に進出していない時代。海は多様な生物で溢れかえっていた。
そんな海中で、圧倒的な巨大さと複雑な身体を武器に、生態系の頂点に君臨していた生物「アノマロカリス」。2本の触覚とクリクリした眼。見た目はエビのような雰囲気だけど、何故かカッコよく見えてしまう。
今回は、人気古生物「アノマロカリス」の大きさと特徴、食性、絶滅理由などのほか、化石発見時の逸話についてピックアップだ!
アノマロカリスとは
アノマロカリスとは、約5億-5億2500万年前の海に生息していた捕食性生物だ。多くの地層から特徴が少しずつ異なる様々な種が発見されている。
2本の触手と独特なヒレ、当時としては他に類を見ない巨大さから、古生物ファンの中でも人気の高い生物だ。
アノマロカリスは、生物の多様化が急速に進んだ古生代カンブリア紀に最も繁栄し、食物連鎖の頂点に位置する当時最強の生物であったと考えられている。
これまでに発見されたアノマロカリスの化石は一種類ではなく、近縁種(アノマロカリスの仲間)の化石も数多く発見されている。今回は「エーギロカシス」や「ペユトイア」といったアノマロカリスの仲間(アノマロカリス類)も含めて紹介していこう。
生息した時代
アノマロカリスが最も繁栄したのは古生代カンブリア紀。動物たちが海の中だけを生活の場としていた時代だ。
カンブリア紀よりも前の地層からは、複雑な身体を持った生物の化石がほとんど見つからないため、この時代に生物の多様化が急速に進んだと考えられている。
多くの生物が独自の進化を遂げる中、アノマロカリスは「捕食」という能力を手に入れることで生態系の頂点に君臨した。
身体の特徴
エビのようにも見えるアノマロカリスだが、彼らの身体は現在の生物とは似つかない特徴を持っている。パーツごとに詳しく見ていこう。
触手
頭部にある2本の触手は内側に曲げることができ、この触手を器用に使うことで獲物を捕らえていたと考えられている。カールした触手の中で獲物を押さえつけ、頭部下にある口まで運んで捕食していたようだ。
触手の内側には棘状の突起が見られることから、捕らえた獲物を逃がすことなく口元に運べたことが想像できるだろう。
触手の見た目が、エビの胴体部分のようになっているため、アノマロカリスの触手の化石が初めて発見された際には「エビの一種」と勘違いされていたそうだ。
ヒレ
胴体の側面からは水平に13対のヒレが伸びている。現生の魚やエビもヒレを持っているが、魚のヒレは水を掻きやすいよう垂直に付いており、エビのヒレは腹部に並んでいる。
つまり、アノマロカリスのヒレは現生の動物には見られない独特な形状をしていた。このことから、アノマロカリスの分類については研究者も頭を抱えていたようだ。
アノマロカリスは、このヒレを順番に波打つように動かすことで、現在のイカやエイのような泳ぎ方をしていたと考えられている。
目
頭部には大きな眼球が短い眼柄を介して左右に飛び出している。カニやエビの眼を想像してもらえるとわかりやすいだろう。
アノマロカリスの眼は六角形のレンズが規則正しく並んだ複眼であり、1つの眼にあるレンズの数は約16000個に及ぶ。
イエバエの複眼のレンズは約4000個。 現生の昆虫にも勝るほどの複眼を持ち合わせていたことで、効率の良い狩りが可能だったようだ。
歯
頭部の下面には「輪切りのパイナップル」とも喩えられる円状の口が確認できる。口には放射状に並んだいくつかの歯が並んでおり、触手で捕らえた獲物を口元に押し付けて捕食していた様子が伺える。
以前は三葉虫の殻をも砕くほどの強靭な歯であると考えられていたが、アノマロカリスの歯にはほとんど損傷が見られないことから、あまり硬いものは食べれなかったとの説が主流になっている。
アノマロカリスの大きさと最大サイズ
これまでにアノマロカリスの仲間は数多く見つかっており、生息地域や時代、種類によって体長が極端に異なることがわかっている。
小さなものではわずか数cmほどであるのに対し、近年発見されたアノマロカリスの仲間の化石は全長2mに達していた。
多くの生物が小さな体長しか持たなかった時代において、2mもの体長を誇るアノマロカリスが「最強」であったことは間違いないだろう。
食性の謎
当初、アノマロカリスは三葉虫などの硬い殻を持った生物を噛み砕いて食べていたと考えられていた。カンブリア紀の地層から見つかる三葉虫の殻に、齧られた痕跡が見られたためだ。
しかし、アノマロカリスの歯を解析したところ、歯にはほとんど損傷が見られず、三葉虫の殻を噛み砕くほどの強度が無いことがわかった。
近年では、蠕虫類などの軟体生物や、脱皮直後の三葉虫のみを捕らえていたという説が有力視されつつあるが、アノマロカリスの食性は未だ謎に包まれている。
アノマロカリスの化石
各地で発見されるアノマロカリスの化石は、身体の中で最も硬い「触手部分」のみであることが多く、全体像が把握されるまでに長い時間を要した。
触手部分の化石は古くから発見されていたが、見た目から「エビのような生物の腹部の化石」であると考えられており、「anomalo(奇妙な)+caris(エビ)」と名付けられた。
その後、口部分と胴体部分が発見されるも、口はクラゲの一種、胴体はナマコの一種であると考えられていた。
特にクラゲと勘違いされた口部分は「ペユトイア」と名付けられ、カンブリア紀の復元図には必ず記載されるほど有名となってしまった。
1980年代以降、複数のアノマロカリス類の化石が発掘されると、それまで別々の生物であると思われていた3つの化石がアノマロカリスの身体の一部であることが判明し、現在の復元図が完成した。
アノマロカリスはいつ絶滅した?
近年まで、アノマロカリスはカンブリア紀の中期〜後期の間に絶滅したと考えられていた。この時期の地層を境にパッタリと化石が見つからなかったのだ。
しかし、2009年にデボン紀の地層からアノマロカリスの仲間であるシンダーハンネスの化石が発見されたことでアノマロカリスはカンブリア紀を超えて生存していたことが判明した。
さらに、2011年には新たにオルドビス紀の地層からもエーギロカシスの化石が見つかったことで注目を集めている。
現在では、アノマロカリス類はオルドビス紀で絶滅したと考えられているが、今後の発掘状況によっては、さらに長い時代を生き抜いていたことが分かるかもしれない。